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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第15話 守護者の実力(3)

それから数日、また闇奴が現れた。例の如く、影人の脳内に闇奴の出現を知らせる音が響き、闇奴の居場所を教える。

「ちっ、せっかくの休日が・・・・・!」

『すみません影人。ですが、今回もお願いします』

 ソレイユが申し訳ない声音でそう言ってきた。まったくである。今日は夜までゲーセンでゲーム三昧と決めていたのに。

『・・・・・影人、そんなことでは恋人の一人もできませんよ』

「うるせえ、クソ女神! 心を読むな! あとそんなもんいらねえよ!」

 自転車を漕ぎながら、影人は虚空に向かって叫ぶ。

 休日に一人叫びながら自転車を爆走する陰キャ野郎に、すれ違った人々は一様にこいつはまじでヤベェ、という視線を送った。

 それから5分ほど自転車を爆走させると(もちろん、しっかり信号は守った)、急に辺りから人がいなくなり始めた。

「あいつらもう戦ってんのか!」

 人がいないということは、結界が展開されているということだ。それはつまり、陽華と明夜が変身しているということである。

 影人がそんなことを考えていると、前方から何か激しい音が聞こえてきた。まるで、何かが暴れているような音だ。

「グルルゥゥゥゥ!」

 自転車を近くに置いて、電柱の陰から影人は様子を窺う。すると闇奴の姿が確認できた。

 どうやら今回は大きな狼型の闇奴のようだ。牙をむき出しでうなり声を上げている。そして闇奴の前には右手に剣を持った光司が、陽華と明夜を守るように立ち塞がっている。

「グルァ!」

 狼型の闇奴がその鋭い爪を光司に向かって振るう。光司はその攻撃を剣で受けとめ、闇奴の攻撃を封じた。

「朝宮さん今だっ!」

「了解ッ!」

 光司の合図で陽華が闇奴に向かって飛びだす。陽華が飛び出したのを確認すると光司は、突然今まで受け止めていた闇奴の攻撃を力を抜いて受け流した。

「グルッ!?」

 いきなり力のバランスを崩された闇奴はそのまま体勢を崩した。光司はその隙を見逃さず、右足で闇奴の腹を思いっきり蹴り上げる。

 守護者変身時の身体能力は人間をはるかに超える。そのため闇奴はその大きな体を宙に浮かせた。

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 陽華は地を蹴り、闇奴より少し上空までジャンプした。そして、空中で体を一回転させると、勢いをつけた両手のハンマーパンチを闇奴の鼻の部分に叩きつけた。

 空中で身動きが取れない闇奴は、陽華の攻撃を避けることが出来ず、そのまま浄化の力が宿った強烈な一撃を受けた。闇奴はそのまま悲鳴を上げながら、地面に激突した。

「月下さん!」

「ええ!」

 ダメージを受けながらも体を起こそうとする闇奴に光司が叫ぶ。

 光司に名前を呼ばれた明夜は杖を振るい、浄化の力を宿した魔法を発動させた。

 闇奴の回りに次々と氷の壁が現れ、闇奴の周囲を覆った。唯一氷の壁がないのは光司のいる前方だけだ。

「グルァァァァァァァッ!」

 闇奴は唸り声を上げながら、恐ろしいスピードで光司めがけて駆けた。そして、その牙で光司に食らいつこうとする。

「君では僕には勝てないよッ!」

 光司は冷静にその攻撃を避けると、剣で闇奴の体を切り裂いた。

 闇奴はそのダメージで体をのけぞらせる。

「二人とも!」

 光司は地上に着陸していた陽華と、明夜に再び声をかける。二人は頷くと、陽華は右手を、明夜は左手を闇奴に向かって伸ばした。

「「汝の闇を我らが光へ導く」」

「逆巻く炎を光に変えて――」

「神秘の水を光に変えて――」

 二人が詠唱を開始すると、陽華のガントレットと明夜の杖が眩い光に変わり、二人の手に宿った。

「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 浄化の光の奔流が闇奴に向かって放たれる。闇奴はその光に飲み込まれ、浄化され元の人間の姿に戻った。

「お見事! 二人ともすごいよ、これで光導姫になって、まだ1ヶ月くらいだなんて信じられないよ!」

「いやいや、香乃宮くんがしっかり合図してくれたおかげ。ね、陽華?」

「うん。しっかり隙もつくってくれたし、今までより断然やりやすかったよ」

 3人は今の戦いについて語ると、闇奴化していた人間を近くの壁にもたれ掛からせた。それが合図かのように、3人は変身を解いた。そして陽華と明夜が変身を解いたことで人払いの結界がその効力を失う。

「ねえ、香乃宮くん。私たち今日はおいしいスイーツを食べに行こうって約束してたんだけど、よければ香乃宮くんも一緒に行かない?」

「え、僕がかい? もちろん嬉しいお誘いだけど、本当にいいのかな・・・・・」

 光司はチラッと陽華を見る。今日は仲の良い友人と食べるスイーツを楽しみにしていただろうに、本当に自分も行ってもいいのだろうか。

 そんな光司の戸惑いを感じたのだろうか。陽華は光司に笑顔を向けてこう言った。

「もちろん! スイーツは人が多いほどおいしいからね! まあ、香乃宮くんが嫌じゃなければだけど・・・・・」

「っ・・・・・あ、ありがとう。なら、遠慮なく」

 またしても心臓が跳ねたような気がしたが、光司はそれを気のせいと無視して二人と共にスイーツを食べにその場を去った。

「・・・・・・・・・・・」

 3人がいなくなったのを確認した影人は、近くに止めていた自分の黒の自転車に座りながら、今見た光司の戦いぶりを思い出していた。

「・・・・香乃宮、あいつ恐ろしいくらいの強さだな」

 剣の捌き、状況判断、それに守護者としてのハイスペックな身体能力をうまく使いこなしている。それは、まだスプリガンとして力を与えられて1ヶ月ほどの素人の自分にも見てわかった。

 それに何より、光司は戦い慣れていると思った。おそらく、陽華と明夜が相手をしている闇奴よりも、もっと強力な闇奴と戦っていたのだろう。

『そうですね、でなければ守護者ランキング10位などという地位は得ていないでしょう。・・・・・・それにしても、彼は本当に優秀な守護者ですね。ラルバに感謝しなければ』

「だから守護者ランキングって何だよ・・・・・」

 相変わらず謎のランキングが気になる影人だが、ソレイユはまだそのことを説明する気はないようだ。

「というか、香乃宮がいるんだし俺いらないくないか?」

『いいえ、影人。必ずあなたが助けなければいけない場面が、強力な闇奴が二人の前に現れるでしょう。だから、その時はお願いします』

「・・・・・・・・・はあ、わかったよ」

 ソレイユの言葉に大きなため息をつきながら、影人は自転車にまたがった。

 とりあえず、今日は夜までゲームをやろうと影人は、ゲームセンターを目指して自転車を漕ぎ出した。

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