第1494話 打ち上げパーティーだ7(4)
しかし、前髪野郎の不幸(あくまで影人の主観)はそこで終わらず――
「帰城くん! ようやく見つけたよ!」
「おや、髪型がいつもの君に戻っているね。正直に言えば残念だが、それはそれとして、普段の君も描きたくなってきたよ」
「っ!? 香乃宮、ピュルセさん・・・・・・!?」
先ほど影人を追いかけていた光司とロゼも現れ、
「あ、影人! ここにいたんですか!」
「やあ、こんばんは」
「ソレイユ、ラルバ・・・・・・!?」
ソレイユとラルバ(白いスーツ姿)も現れ、
「あ、帰城くん! やっぱり来てたんだ!」
「こんばんは。スーツ決まってるわね」
「何やこの兄ちゃん2人の知り合いかいな。というか、えらい前髪長い兄ちゃんやな」
「わ、わっ・・・・・・顔の上半分が見えない・・・・・・」
「随分とお暗い・・・・・・いえ、個性的な見た目のお方ですわね」
「あ、朝宮に月下・・・・・・!?」
陽華と明夜(ブルーのドレス姿)、後は影人は知らないが火凛(黄色のドレス姿)、暗葉(若草色の着物姿)、典子(紫色のドレス姿)も現れ、
「あ、帰城さん・・・・・・」
「おや、お知り合いでありますか会長?」
「っ、『巫女』・・・・・・!?」
風音(白色に赤い花柄の着物姿)、そしてまた影人は知らないが芝居(水色のドレス姿)も現れ、
「帰城影人、少し話したい事があります」
「ああ影人! ただいま! やっとお前の元に帰ってこれたよ!」
「っ!?!?」
シトュウと零無までも現れた。同タイミングでそれだけの者たちに声を掛けられた影人は、もう何が何だか分からないといった感じで混乱していた。
「くくっ、おい見てみろよ。たまたま通りかかったら、アホが泡食ったような顔してやがるぜ。ざまあねえ」
「!」
そんな影人の様子を見ていたイヴは、笑いながら自分の隣にいたぬいぐるみにそう言った。ぬいぐるみは「何か面白そうだね!」といった感じに両手をパタパタと振った。イヴとぬいぐるみはこのパーティーでたまたま出会い仲良しになっていた。
「さ、影くん! 私と踊ろう♪」
「帰城くん! どうか髪を上げて写真を!」
「さて、では今度こそ描かせてもらおうか」
「影人! せっかくだから私もあなたと踊ってあげます! ふふん、感謝するんですね!」
「え!? ソ、ソレイユ・・・・・・!?」
「ねえ帰城くん! 私たちと一緒に食事しない? きっと楽しいよ!」
「そうよハーレムよハーレム。男なら1度は夢見るでしょ」
「こんばんは帰城さん。先日はお疲れ様でした」
「帰城影人、聞いてください。先ほど零無から話を聞き全知の力を使ったところ――」
「影人、これからはずっと吾とパーティーを回ろうぜ。じゃなきゃ、気がおかしくなってしまうよ」
「・・・・・・」
ソニア、光司、ロゼ、ソレイユ、ラルバ、陽華、明夜、風音、シトュウ、零無それぞれの言葉を聞いた影人は、まるでフリーズしたかのように無表情、無言になった。
そして、
「は、ははっ・・・・・・どうなってやがるんだよ今日はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
影人は心の底からの叫びを上げた。ついでに、ソニアの右手を振り払うと、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! 俺は孤独のロンリーウルフだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
限界だったのかそう絶叫しながら、そのままどこかへと走り去った。その様子は、完全にヤバい奴のそれであった。
「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」
影人のそのあまりにもな勢いに、取り残された者たちは、いったい何が起きたのかも分からずに唖然と、或いは不思議そうな顔を浮かべていた。
「・・・・・・俺は呪われてる。はあー、ソレイユと出会う前はクールでイカした一匹狼で、ロンリーウルフポイントも凄かったのに・・・・・・どうしてこうなっちまったんだ・・・・・・」
数分後。意味の分からない言葉をブツブツと呟きながら頭を抱えていた不審者は、バルコニーにいた。先ほど暁理といたバルコニーではなく、パーティー会場を出た先にあったフリースペースと思われるバルコニーだ。そのため、周囲に人の姿は影人以外にはなかった。
「別に複数人で騒ぐ事が悪じゃないんだ・・・・・・別にたまにならいい。だが、常態化していくのはダメだ。頻度が高いのはダメだ・・・・・・それは格好良くない。俺は1人が好きなんだ・・・・・・」
前髪理論全開の言葉を呟きながら影人は顔を上げた。そして、今はそういえば何時だろうと思い、影人はズボンのポケットに入っていたスマホを取り出そうとした。
「――よう。お隣いいかい? 色男さん」
「っ?」
すると、突然後ろから声を掛けられた。男の声だ。影人が振り返ると、そこには1人の男がいた。見たところ影人と同年代。髪の色と瞳の色などからするにアジア人だ。会場の外に出ても影人に言葉が分かるという事は(会場には言語が通じるように結界が張られているとソレイユが挨拶の時に言っていた)、日本人。どこか軽薄な印象を受けるその男の事を、影人は知らなかった。いや、正確にはどこかで1度見た事があるかもしれないが、思い出せなかった。
「あの・・・・・・どちら様ですか?」
「ああ、まああの時はゴタゴタしてたから覚えてないか。俺はあんたの素の見た目が特徴的だったから覚えてたが・・・・・・そうさな、じゃあこう言えば分かるかい?」
影人が男にそう聞き返す。男はヘラリとした笑みを浮かべそう言うとこう名乗った。
「俺の名前は案山子野壮司。かつて、あんたやレイゼロールを『フェルフィズの大鎌』を使って何度も殺そうとした男さ」




