第1493話 打ち上げパーティーだ7(3)
「きゅ、急に大きな声を出すな。落ち着けって」
「僕は落ち着いてるよ! だから早く吐け!」
影人は何とか暁理を宥めようとするが、暁理は興奮状態であるためかそう言って影人を睨んできた。どうでもいいが、至近距離から暁理の顔を見た影人はこいつやっぱ美少女の類いは類いだなと思った。
「はあー、ったく・・・・・・」
これは何を言っても意味がないと悟った影人は、右腕を暁理の腰に回し暁理を軽く抱き寄せた。
「っ!?!? え、えええ影人!? い、いいきなり何!?」
急に影人に抱き寄せられた暁理は顔を真っ赤にしながら、理解不能といった感じでそう言った。いったい何が起きたのか。
「何って踊るんだろ? これ以上お前にぎゃあぎゃあ言われるのは面倒だし、仕方ないが踊ってやるよ。文句あるか?」
暁理にそう聞かれた影人が答えを返す。影人にそう言われた暁理は少しいじけたような顔になった。
「し、仕方ないからって・・・・・・」
「別にそこ気にしなくてもいいだろ。だがまあ、分かったよ。・・・・・・暁理、俺と踊ってくれ」
「っ・・・・・・」
そう言い直した影人は、前髪の下の目でジッと暁理の目を見つめた。影人にそう言われた暁理は、驚いたようにその目を見開き、
「はい」
そう言った。満面の笑みを浮かべながら。
「や、やっぱり不幸な日だぜ今日は・・・・・・」
再び十数分後。暁理とのダンスを終えた影人は、体力的にも精神的にも疲れ切ったような様子でそう言葉を漏らしていた。
自分からダンスに誘ったくせに暁理は全くダンスを踊れなかった。そのため、レイゼロールとシェルディアと踊った影人が記憶や感覚に頼りながら暁理をリードした。まあ、リードしたといっても影人もど素人には変わりないので、結局酷い目も当てられないダンスになってしまった。ステップを間違え暁理が影人に抱きついてしまったなどのアクシデントも起きた。暁理は恥ずかしがったが同時になぜか嬉しそうだった。そして、ダンスを踊って満足した暁理から解放されて今に至るというわけだ。
「糖分を補給して活力を得なければ・・・・・・じゃなきゃ色々もう限界だ・・・・・・」
3連続のダンスで心身ともに疲弊した影人は、ヨロヨロとゾンビのように歩いていた。行き先は未だに辿り着かぬ理想郷、桃源郷、シャンバラ、ニライカナイ、シャングリラ、もとい、デザートコーナーである。
「お、おお・・・・・・」
しばらくすると、影人の視界内にデザートコーナーが見えて来た。遠目ではあるが、ケーキやアイス、ワッフルやフルーツ、その他諸々のデザートがある。影人には色取り取りの、まるで宝石箱のように、或いは砂漠の中のオアシスのように見えた。
「今度こそ、今度こそだ・・・・・・俺は辿り着いたぜ・・・・・・!」
影人は堪え切れぬ笑みを浮かべ、一歩また一歩とデザートコーナーに近づいて行く。あと一歩という所で、影人は無意識に手を伸ばした。
だが、
「あ、いたいた! もうずっと探してたんだからね影くん!」
影人が伸ばしたその手首をガシリと掴んできた人物がいた。その人物の名はソニア・テレフレア。元光導姫ランキング2位『歌姫』にして、世界にその名を冠する歌姫である少女だ。ソニアは普段はストレートの長い髪を、オレンジ色のリボンを使ってサイドテールにしていた。ちなみに、衣装は鮮やかな赤色のドレスだった。




