第1492話 打ち上げパーティーだ7(2)
「そう上手よ。私に全て任せて」
「あ、ああ」
シェルディアにリードされながら影人は頷いた。こう言っては失礼だろうが、先ほどのレイゼロールよりも圧倒的に上手い。体がスルスルと滑らかに動く。
「ふふっ、幸せだわ。影人、あなたを近くに感じる。ああ、この時間が愛しいわ。ずっと続けばいいと思うほどに」
「っ・・・・・・それは大袈裟だよ嬢ちゃん」
先ほどのレイゼロール同様、輝いたような笑みを浮かべるシェルディア。そんなシェルディアに美を感じつつも、影人はそう言葉を返した。
「そんな事はないわ。大袈裟だなんて、そんな事は決して」
シェルディアが微笑みながら首を横に振る。黒の衣装を身に纏う影人と白の衣装を身に纏うシェルディア。黒と白が互いに絡み舞いながら、2人の時間は過ぎて行った。
「ありがとう影人。とても楽しかったわ。本当にいい思い出が出来たわ」
「どういたしまして。俺なんかと踊って、そう言ってくれるのは嬉しいよ。じゃ、また」
「ええ、また後で」
十数分後。ダンスを終えた2人はそう言葉を交わし合っていた。満足そうな顔のシェルディアに、影人は軽く手を振り、今度こそデザートコーナーを目指して歩き始めた。
「影人!」
すると、また影人はどこからか自分の名前を呼ばれた。声のした方、右斜め前方に顔を向けるとそこには暁理がいた。
「げっ、暁理・・・・・・」
「よくもまあ、友達の顔見てげって言えるね。本当終わってるよ君は。というか、さっきまでは髪上げてたのに、何でいつもの君に戻ってるのさ? まあ、そっちの方が君って感じだけど」
先ほど逃げた者の内の1人に見つかった影人がマズいといった顔を浮かべる。暁理は呆れたような憤慨したような顔で、影人との距離を詰めてきた。
「言っとくけど、もう逃がさないから。今から君には僕に付き合ってもらうよ。その用が済めば、解放してあげてもいい」
「よ、用? なんだよその用って・・・・・・」
嫌な予感を覚えながらも影人はそう聞き返した。
すると暁理は、
「き、君には今から僕と踊ってもらう! 言っとくけどこれは決定事項だから!」
顔を赤くさせながらそう言った。
「あー、ちきしょう・・・・・・いったい今日はどうなってんだよ・・・・・・」
その言葉を聞いた影人は疲れたようにそう呟いた。まさかの本日3回目のダンスのお誘いである。体力的にもパターン的にも疲れてきていた影人は、軽く右手で頭を抱えた。
「おい何だよその反応は! 相手がいないだろう君を見兼ねてわざわざ声をかけてやったのに失礼だぞ!」
そんな影人の事情など知らぬ暁理は怒ったようにそう言葉を放つ。暁理にそう言われた影人は軽くため息を吐いた。
「失礼なのは俺に相手がいないって決めつけてるお前もだろうが・・・・・・なあ暁理。俺もう2回も踊ってんだよ。慣れないダンスを2回も踊ったから疲れてんだ。だから、埋め合わせはなんかそれ以外の事に――」
してくれ。だが、影人がそう言い切る前に暁理は更に怒ったようにこう言って来た。
「は!? 何それ! 君が2回も誰かと踊った!? 誰と!? 吐け影人! 誰と踊ったんだよ!?」
「「「「「?」」」」」
今にも胸ぐらを掴みそうな勢いで、暁理が突っかかって来る。未だに優雅なダンスタイムという事もあって、周囲の者たちは不審そうに或いは不思議そうな顔を暁理と影人に向けた。




