第1491話 打ち上げパーティーだ7(1)
「ふぅ・・・・・・慣れねえ事しちまったな」
約10分後。レイゼロールとのダンスを終えた影人はパーティー会場に戻っていた。こちらはまだダンスタイム中らしく、ステージの上で楽団が奏でる音楽に乗って、所々で若者たちが踊っている。いかにもパーティーといった感じだ。
「そういやデザートがまだだったな。よし、デザート食うか」
確かデザートはビュッフェコーナーの一角、というか近くにあったはずだ。影人はデザートを目指して歩き始めた。
「影人」
デザートコーナーを目指している道中、影人は声をかけられた。影人が声のして来た方を見ると、そこにはシェルディアがいた。
「嬢ちゃんか。キベリアさんは一緒じゃないんだな」
「キベリアは人に酔ったとかで今バルコニーの方にいるはずよ。それよりも、ちょっと見ない間にすっかりいつものあなたに戻ったのね」
「ああ、ちょっと色々あってな」
影人の方に寄って来たシェルディアは少し不思議そうな顔でそう聞いて来た。影人は苦笑いを浮かべそう答えた。
「そう。でも、やはりそちらの方が何だかしっくり来るわね。姿形は関係ない事は分かっているけれど」
「レイゼロールにも似たような事言われたよ。ま、この髪型にしてもう7年くらいだからな。この髪型はもう俺のアイデンティティの一部になってるって、自分でも思うよ」
笑みを浮かべながらそう言ってきたシェルディアに、影人は自分の前髪を軽く弄る。最初はただの戒めであったこの前髪は、いつしかそれ以外の意味を持つようになっていた。
「そう言えば、嬢ちゃんは何で俺に声かけて来たんだ? 何か用があったのか?」
影人は軽く首を傾げシェルディアにそう質問した。影人の問いかけにシェルディアは頷いた。
「ええ、実はそうなの。ねえ、影人。よければ・・・・・・私と踊っていただけるかしら?」
そして、シェルディアはスッと自身の右手を差し出してきた。
「え・・・・・・?」
先ほどのレイゼロールとほとんど同じ事を言われた影人は、唖然としたようにそう声を漏らした。
「あら、嫌だったかしら?」
「い、いや別にそういう事じゃないんだ。ただ、ついさっきレイゼロールの奴にも同じ事言われて踊ってきた所だから、驚いただけで・・・・・・」
首を傾げるシェルディアに影人は少し慌てながら弁解の言葉を述べた。その言葉を聞いたシェルディアは「へえ、そうだったの」と少し驚いたような顔になった。
「ふふっ、だったら尚の事あなたと踊りたくなって来たわ。あの子だけ踊って、私は踊れないなんてそんなの許せないもの。ねえ、影人。私とも踊ってくれるわよね? ええ、是非に」
ニコリと笑みを浮かべるシェルディア。だが、その目は笑っていなかったし、全身からは何か重圧のようなものが放たれていた。少なくとも、影人はそう感じた。
「じょ、嬢ちゃん怖いって・・・・・・あと、それほとんど脅迫じゃ・・・・・・」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、何でもないです・・・・・・」
生物としての本能で危機を感じ取った影人はそう言って体を縮こませる。怖い。すごく怖い。真祖シェルディア全開である。
「ったく、何でレイゼロールも嬢ちゃんも俺なんかと踊りたいんだか・・・・・・でも、俺本当に踊れないから、それだけは先に言っとくぜ」
「問題ないわ。踊るのは久しぶりだけど、これでも昔は随分と踊ったから。私がリードしてあげるわ」
そう言ってシェルディアは影人の手を操り踊る体勢を作ると、音楽に乗ってゆっくりと動き始めた。




