第1489話 打ち上げパーティーだ6(4)
「な・・・・・・!? う、嘘じゃねえよ! 俺はラブアンドピースがモットーの男だ!」
嘘を見破られた影人は焦ったようにそう反論した。3人の指摘の通り普通に嘘なのだが、影人はなぜ自分の嘘がバレたのか分からず動揺していた。
「ラブアンドピースが好きな男があんだけえげつない戦い方出来るかよ。普通に精神イカれてるだろ」
「平和好きな者なら、血みどろな暗躍なんて出来ませんよ」
「お前は自分を普通だと思っているのか知らんが、お前は普通ではない」
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
冥、フェリート、レイゼロールは冷めた口調で更に言葉を述べた。3人にそう言われたエセ平和主義者は衝撃を受けた顔になった。
すると、ちょうどそんな時――
「〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜♪」
「っ? なんだ・・・・・・?」
小さな音ではあるが、どこからか音楽のようなものが聞こえてきた。影人は不思議そうな顔を浮かべ、そう言葉を漏らした。
「隣のパーティー会場の演奏ですよ。扉が分厚いので小さく聞こえますが、実際は相当に大きな音です。どうやら、始まったようですね」
「始まった・・・・・・? 何がだよ?」
影人の呟きに答えたのはフェリートだった。言葉から察するに何かを知っているらしい。影人はフェリートにそう聞いた。
「何って決まっているでしょう。夜会には不可欠なものですよ」
「はあ? おい、ふざけてないで詳しい答えを――」
小さな笑みを浮かべながらそう言ったフェリートに、影人は意味が分からないといった顔を浮かべた。
「・・・・・・おい、影人」
「? 何だレイゼロール?」
レイゼロールが立ち上がり影人に声を掛けてくる。どこか真剣な表情で。レイゼロールに名を呼ばれた影人は少し訝しみながらもそう言葉を返した。
「立て。そ、その・・・・・・お、踊るぞ」
「は、はあ?」
何の脈絡もなく急にそんな事を言って来たレイゼロールに、影人はどこか素っ頓狂な声を上げた。
「な、何言ってんだお前? 頭がどうにかしちまったのか?」
状況が理解出来ない影人がレイゼロールにそう聞き返す。すると、レイゼロールの後ろに立っていたフェリートがどこか呆れたようにため息を吐いた。
「夜会で音楽が奏でられれば、それは舞踏の合図です。常識でしょう」
「そんな常識知らねえよ! というかお前それなんだよ!?」
「別に普通のバイオリンですが?」
気がつけば、フェリートの手には楽器が握られていた。影人の言葉に、フェリートは何でもないようにそう答えた。いったいどこから出したのか。本当に謎である。
「レイゼロール様は向こうの会場にはあまり行きたくないとの事ですから、踊るのならばこの部屋でという事です。ですが、音楽がないと舞踏はやり難いもの。ゆえに、僭越ながら私が曲を奏でます。バイオリンは嗜む程度ですが・・・・・・大体の曲は弾けるので問題はありません」
左手にバイオリンを右手に弓を持ちながら、フェリートはそう説明を続けた。
「いや問題しかねえだろ!? 俺ダンスなんか全く踊れんぞ!?」
「問題ありません。型など必要なく、ただ心のままに動けばいいのです。それに、初心者はあなただけではありません。レイゼロール様もです。ゆえに、気にせずに踊ってください」
「心のままにって・・・・・・だから、それが難しいんだろ・・・・・・」
影人がそう呟く。すると、レイゼロールが影人の所まで来て、スッと右手を差しだして来た。
「・・・・・・細かい事は気にするな。お前はただ、我のこの手を取ればいい」
「レイゼロール・・・・・・」
未だにどこか恥ずかしげな表情を浮かべながらも、レイゼロールがそう言って来た。影人は差し出された手を見つめながら、どこか驚いたような顔を浮かべた。




