第1485話 打ち上げパーティーだ5(4)
「ちょ、ちょっとどこに行く気だよ?」
「どこって・・・・・・会場に戻ってパーティー楽しむんだよ。そろそろ香乃宮とピュルセさんのほとぼりも冷めてるだろうしな」
暁理の言葉に影人はそう答えを返した。すると、暁理は呆れたような顔を浮かべた。
「だったら普通、僕も一緒にとか聞かない? 君、本当そういうところだよ」
「普通とかは知らん。俺は1人で十分にパーティーを楽しめるからな」
「相変わらず終わってるね君は・・・・・・」
暁理がため息を吐く。すると暁理はこう言葉を続けた。
「・・・・・・仕方ないから、僕が君と一緒にパーティーを回ってあげるよ。僕は優しいからね」
「いやいい。悪いが遠慮させてもらうぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は? え、あの僕の聞き間違いかな? 君今断らなかった?」
即答した影人に、暁理はどこか焦ったような笑みを浮かべた。そうだ。聞き間違いに決まっている。普通ここは泣いて頷く場面だ。でなければ、この世界はおかしい。
「聞き間違いじゃない。遠慮するって断ったんだ。今日もそうだが、ちょっと最近ロンリーウルフポイントが足りてないからな。だから、1人で回りたいんだよ」
だが世界はどうやらおかしかったようだ。世界の歪みたる前髪野郎は意味不明な理由でその首を横に振った。
「は、はあ!? 君本当に人間なの!? 後、ロンリーウルフポイントって何なんだよ!? 意味分かんないし! というかダサい!」
「俺は人間だ。後ダサくはない。そういうわけでじゃあな暁理。暇なら朝宮とか月下も来てるから、あいつら探すんだな」
あまりの理不尽に絶叫する暁理。そんな暁理に影人はそう言うと、パーティー会場の中に向かうべく歩き始めた。
「いや、あの2人は僕が光導姫だって事は・・・・・・ってそうじゃなくて! おい待て影人! 話はまだ終わってないぞ!」
「何でお前も追いかけて来るんだよ!? ああもう、今日は何なんだよ!」
暁理は反射的に影人を追いかけ始めた。暁理に追いかけられた影人も反射的に逃げ始める。こうして、また追いかけっこが始まってしまったのだった。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・おえっ、な、何とか撒けたか・・・・・・」
数分後。ゲロを吐きそうになりながらも、暁理から逃げ切った影人は、会場の端で膝をガクガクと震わせながら、そう言葉を漏らした。視界に前髪が掛かっている。どうやら、度重なる激しい運動で前髪が落ちて来たらしい。まあ、軽くワックスをしただけなので仕方がないか。すっかりいつもの前髪野郎に戻った影人はそう思った。
「な、何で俺はパーティーに来てこんなに疲れてんだ・・・・・・意味が分からん・・・・・・」
影人は自分の不幸を嘆いた。光司とロゼに関してはまあ不幸には違いないだろうが、暁理の件に関しては100パーセント自分が悪いという事をこの前髪は分かっていない。つまりアホである。
「流石に鬼が3人もいる中で飯とかデザート食うのは無理だよな・・・・・・仕方ねえ。またほとぼりが冷めるまで、会場の外にでも――」
影人がガリガリと頭を掻きながらそう呟こうとしている時だった。突然、影人の右肩に誰かの手が触れた。
「っ!?」
まさか奴ら(光司やロゼや暁理)かと思った影人が振り返る。すると、そこには――
「な、何ですか。そんなに驚きますか?」
怜悧な顔に単眼鏡を掛けた長身の身綺麗な男性がいた。執事服に身を包んだ、いかにも執事といった感じのその男は少し驚いたようにそう呟いた。
「はあー、何だお前かよ。脅かしやがって・・・・・・で、俺に何か用かよ。フェリート」
安心したようにため息を吐いた影人がその男の名を呼ぶ。十闇第2の闇『万能』のフェリート。何度か激闘を繰り広げたその闇人に、影人は何でもないようにそう聞いた。
「用があるのは私ではありませんよ。というか、あなた随分気安いですね。一応、先日の件も含めて私たち何度も殺し合いをした仲ですが」
「殺し合いをした奴らなんざ、悲しいが腐るほどいるんだよ。だから、いちいち気にしてねえ」
「そ、そうですか・・・・・・」
影人の言葉を聞いたフェリートは若干引いたような顔を浮かべた。
「で、用は?」
影人が再びフェリートにそう問いかける。すると、フェリートはこう答えた。
「レイゼロール様があなたをお待ちです。あなたを連れてくるように主人から仰せつかりましたので、どうか私に着いてきていただきたい。帰城影人殿」




