第1484話 打ち上げパーティーだ5(3)
「お前の言うみんなっていう奴らの範囲は分からんが、まあ朝宮とか月下を含む一部の奴らは知ってるよ。それでも大多数の奴らは知らないがな」
「そっか・・・・・・」
暁理はそう呟くと、しばらくの間言葉を発さなかった。
「ぷっ・・・・・・あはははははははははっ!」
そして、暁理は唐突に笑い出した。まるで、可笑しくて仕方がないといった感じで。
「笑っちゃうよね! こんなに近くにいてお互いに気づかなかったなんて! 本当、冗談みたいな話だよ! 笑うしかない!」
「お前が俺の正体に気づかなかったのは一応理由があるんだが・・・・・・そうだな。笑い話だ」
笑う暁理に、影人も軽く口角を上げながらそう言葉を返す。笑い話。そう言えて本当に良かった。口には出さなかったが、影人は心の底からそう思った。
「確かにスプリガンの言葉って今思えば君が好きそうな言葉ばっかりだったよね。正直、雰囲気に騙されてたよ」
「おい待て暁理。それはどういう意味だ」
「別に〜? 大した意味はないよ」
ムッとする言葉を浮かべる影人に、暁理はどこか意地悪く笑った。
「ねえ影人。別に今日じゃなくてもいいからさ、またスプリガンだった時の君の話を聞かせてよ。君の話にしては珍しく面白そうだし」
「珍しくで悪かったな。・・・・・・ま、いいぜ。また今度聞かせてやるよ。この俺の暗躍譚をな」
「何かそう言われると一気に面白くなさそうに聞こえてきたよ。やっぱりいいかも」
「おいふざけんな暁理てめえ」
すっかりいつものやり取りに戻った2人。すると暁理は改めて影人にこう聞いて来た。
「というか、聞くの忘れてたけど君なんで今日は前髪上げてるのさ? いっつも頑なに素顔を見せなかった君が今日に限って。いやでも、スプリガンの時も顔は出てたか・・・・・・? その辺りはよく分からないけど、とにかくどうして」
「別に気分だよ。それ以上もそれ以下も理由はない」
「嘘だあ。君みたいな奴が理由なく髪上げるはずないじゃん。偏屈で性格も終わってる君が」
「本当にしばくぞてめえ!? はあー・・・・・・お前が嘘だと思おうが、それが真実の理由だ。納得しろよ」
止まらぬ誹謗中傷に影人が軽く叫ぶ。そして、影人はため息を吐きながらそう言葉を述べた。
「ふーん・・・・・・ま、分かった事にしといてあげるよ。うん、でもあれだね。スプリガン時は別として、君の素顔を見たのは今日初めてだけど・・・・・・そ、その・・・・か、格好いいね・・・・・・面だけはいいっていうか・・・・・・」
顔を赤らめながらごにょごにょとした口調で暁理はそう言った。初めて見る影人の顔は、普通に整っており綺麗だった。それに加えてパーティー用に正装しているため、全体的にかなり格好いいと思えた。
「あ? ごにょごにょしてて何言ってるか分からんぞ。何だって?」
「だ、だからその・・・・・・! ぼ、僕が着飾ってるのに何の感想もないのかって話さ! ほ、ほら何か言えよ!」
そう聞き返して来た影人に、暁理は誤魔化すようにそう言った。基本的に、前髪に弱みは見せたくない暁理である。
「お前の感想・・・・・・? 別にいいんじゃねえか。似合ってるよ。普段のお前とのギャップも相まってな。お前も女子ってわかる感じだ」
「最後の言葉だけ余計なんだけど。でも、ま、まあ君にしては及第点ってところかな! えへへ・・・・・・」
前半はムスッとした顔、後半はニヤけたような顔になりながら、暁理はそう言った。一言二言でも、自分の晴れ姿を褒められるのは乙女的には非常に嬉しいものだ。
「そいつはどうも。・・・・・・さて、俺からの話はこれで終わりだ。呼び止めて悪かったな」
影人はそう言うと、バルコニーから去ろうとした。そんな影人を暁理は呼び止めた。




