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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1473/2051

第1473話 打ち上げパーティーだ2(4)

「別にスプリガンに変身してもいいが・・・・・・一瞬でも目立つのは嫌だしな。という事で、シトュウさん。悪いが、こいつに肉体与えてやれないか? ほら、シトュウさんは地上でも力を使えるだろ」

 影人はシトュウにそうお願いをした。影人がイヴに肉体を与えるならば、スプリガンに変身しなければならない。スプリガンの力を使えば、幻覚などを体に重ねて今と同じ見た目になる事も出来るが、力を使うまでに少しだけだがタイムラグがある。その間に周囲の人物たちに気づかれたくはない。そのため、変身する事は望ましくない。

 だが、イヴに肉体は与えてやりたい。ゆえに、影人はシトュウにそう願った。『空』として全ての力を取り戻したシトュウならば、それくらいは造作もない事だと思ったからだ。

「ふむ、それは女神ソレイユの神力の結晶体のようなものですね。その結晶体に宿っているモノ・・・・・・それに肉体を与えればいいという理解で合っていますか?」

「ああ、その理解で合ってる」

 確認を取ってきたシトュウに影人が頷く。その頷きを見たシトュウは「分かりました。いいでしょう」と言って、ペンデュラムに触れた。すると、次の瞬間、ペンデュラムの黒い宝石が黒く輝き、

「おおっ・・・・・・」

 数秒後にはペンデュラムが消え、イヴが肉体を得て顕現していた。イヴは久しぶりに得た自分の肉体を見下ろすと、嬉しそうに興奮したように声を漏らした。ちなみに、周りの者たちはあまりにも一瞬の事だからか、パーティーの熱気からか全く気づいていない様子だった。

「って、おい! この服装は何だよ!?」

 だが、イヴはすぐに恥ずかしそうな顔を浮かべるとシトュウにそう抗議した。イヴの服装はいつも黒いボロ切れのようなものなのだが、今日のイヴの格好は漆黒の美しいドレス姿だった。しかも、胸元には黒い宝石のついたペンダントも飾られていた。

「この場に合わせた服装を選んだだけです。肉体や服装の自在は与えた私に決定権がありますからね。今回は服装と装飾品だけ決定させていただきました」

「へえ・・・・・・くくっ、似合ってるぜイヴ。いやマジで」

「っ・・・・・・! え、影人てめえ・・・・・・!」

 シトュウがイヴにそう説明し、着飾ったイヴを見た影人はニヤニヤと笑みを浮かべた。影人にそう言われたイヴは、いつもの人を食ったような様子はどこへやら。赤面し影人を睨みつけた。

「まあ、今日楽しむ料金だと思って諦めろよ。俺も似合わねえ格好してんだからさ」

「ちっ・・・・・・! 分かったよ! 影人! てめえ後で覚えてろよ!」

 イヴはそう言葉を吐き捨てると、影人と同じような食べ物を取るためかお皿を取りに行った。

「おお、珍しい。ゴネずに行きやがった。そんだけワクワクしてるって事だな」

 イヴの背中を見つめながら影人がそんな感想を漏らす。いつものイヴなら間違いなく嫌だと喚いていたはずだ。

「なあシトュウ。吾にも肉体くれよ。別に何もしないからさ」

「ふざけんな零無。てめえはまだダメだ。しばらくはずっと反省してろ」

 その様子を見ていた零無がシトュウにそう催促したが、影人が待ったの言葉をかけた。影人にそう言われた零無は「むぅ・・・・・・」と不満そうな顔を浮かべた。

「じゃ、俺は飯食うからこの辺で。色々とありがとうなシトュウさん」

「いえ、礼には及びません。それではまた」

 影人はシトュウに軽く手を振って、その場を後にしようとした。そろそろ料理が冷めてしまうし、何よりも空腹が限界だったからだ。シトュウも影人に軽く手を振りながらそう言った。

「ああ、零無。あなたは少し待ってください。あなたには聞きたい事があるのです」

「おいおい、何だっていうんだよ? 吾と影人の一緒にいる時間を邪魔するなよ。というか、聞きたい事があるなら全知の力を使え。お前はもう使えるだろ」

 影人に着いていこうとする零無をシトュウが呼び止める。シトュウに呼び止められた零無は不機嫌そうな様子でそんな言葉を放った。

「直接あなたから聞きたいのですよ。だから、少し付き合ってください」

「いいじゃねえか。シトュウさんに付き合ってやれよ零無。シトュウさんにも散々迷惑かけたんだ。それくらい聞け」

「・・・・・・ちっ、分かったよ。ただし、本当に少しだけだからな」

 影人にそう催促された零無は渋々といった感じで頷いた。

「さて、どこか空いてる席はっと・・・・・・」

 それを見た影人はそう呟くと、ゆっくりご飯を食べられる席を探し、零無たちから離れて行ったのだった。






「美味え・・・・・・いやマジで全部美味え・・・・・・」

 数分後。パーティー会場端の空いているテーブルを見つけた影人は、そこで先ほど皿に盛り付けた食事に舌鼓を打っていた。本当にどれもこれも信じられないくらいに美味しい。影人は舌が肥えているわけではないが、これは凄腕のシェフが作った料理だという事が理解できた。

「次は何食うかな・・・・・・ていうか、イヴの奴結局どこ行ったんだ? まあそこらで適当にパーティー楽しんでるとは思うが・・・・・・まあ、干渉し過ぎない方がいいよな。うん、それも子育てだし」

 ブツブツと癖である独り言を呟きつつ、影人は皿を綺麗に空にした。せっかくだから、出来るだけ色々な種類の料理を食べよう。そうと決まれば、早速第2陣だ。影人は再び料理が並ぶビュッフェコーナーに向かうべく、イスから立ちあがろうとした。

 するとそんな時、


「――失礼する。少しお話いいだろうか?」


 突然影人はそう声をかけられた。

「ん・・・・・・?」

 影人が声を掛けて来た人物の方に顔を向ける。すると、そこには1人の女性がいた。美しい長い銀髪にルビーのような赤い瞳。他の参加者同様に、その女性もドレスを纏っていた。可愛らしいというよりは、美しいスマートな白いドレスを。

「っ、お前は・・・・・・」

 その女性を見た影人は軽く驚いたような顔を浮かべた。影人はその女性の事をよく知っている。一応、1番直近で会ったのは数日前の零無との戦いの時だ。その時はほとんど言葉を交わさなかったが、それでもこの目の前にいる彼女に、影人は強烈な印象がある。なぜならば、彼女とは何度か戦ったからだ。スプリガンとして暗躍していた時代に。

「・・・・・・いったい俺に何の用だ『提督』」

 そして、影人は彼女の光導姫名を呟いた。そう。影人の目の前にいるこの少女は、元光導姫ランキング3位『提督』。その名をアイティレ・フィルガラルガといった。

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