第1468話 打ち合げパーティーだ1(3)
「うるせえよ零無。そういう感想マジでいらねえからやめろ」
そして、その少年が帰城影人である事を示すように、影人はそう言うと、キベリアたちの方へと近づいて来た。
「え!? う、嘘っ!? あんた、帰城影人なの!?」
「そうですよ。ていうか、そんなに驚かなくても、スプリガンの時と目の色以外は同じだから、別に分かるでしょ」
キベリアが信じられないといった顔でそう叫ぶと、影人はどこか面倒くさそうな顔でそう言葉を返して来た。言われてみれば、確かにその顔には見覚えがあった。
「いやでも分からないわよ! あの時のあんたと今のあんたじゃ全然雰囲気違うし! 普段の帰城影人といえばあの長すぎる前髪でしょ!?」
「いや確かに特徴にはなってるでしょうが、まるで俺が前髪の付属品みたいな言い方はやめてくださいよ・・・・・・」
だがしかしといった感じで叫ぶキベリアに、影人はどこか傷ついたような顔を浮かべた。普段は前髪に隠されている素顔が露わになっているので、表情の変化がいつもよりも格段に分かりやすい。
「・・・・・・どういう心境の変化なの影人? 私も、普段のあなたの素顔を見たのはこれが初めてだわ・・・・・・」
「ああ、そうだろうな。スプリガンじゃない俺の素顔を見た事があるのはこの場じゃ零無しかいないし、他もかなり数が限られるからな」
未だに驚いてるシェルディアに、影人は軽く頷いた。そして、こう言葉を続けた。
「・・・・・・別に大した理由じゃないんだ。ただ、色々区切りがついたからな。ちょっとした気まぐれだよ。だから、これからも普段は前髪を下ろした状態がほとんどだ。それでも・・・・・・今日くらいはまあいいかって思ったんだ。理由はそれだけだよ」
「影人・・・・・・」
影人の言葉を聞いたシェルディアは、一瞬その目を見開いたが、すぐに暖かな笑みを浮かべた。
「・・・・・・そう。それは素晴らしい理由ね。ふふっ、今のあなたの格好似合っているわよ。格好いいわ」
「そう言われると、どうしようもなく変な気持ちになっちまうが・・・・・・ありがとう。嬢ちゃんも似合ってるぜ」
シェルディアにそう言われた影人は気まずそうな顔を浮かべながらもそう言葉を述べた。
「あら、それだけ? もう少し他の感想も出てきてもいいと思うのだけれど」
「そうよ。別にあんたなんかに褒められても全く嬉しくないけど、女が着飾ってるなら褒めるのがマナーでしょ。そんな事も分からないの?」
シェルディアとキベリアが影人にそう言って来る。2人にそう言われた影人は困った顔になりこう言った。
「そこは勘弁してくれませんかね・・・・・・そういうの、本当キャラじゃないんで・・・・・・」
「ふふっ、冗談よ。ありがとう。さあ、じゃあそろそろ会場に行きましょうか」
シェルディアは笑みを浮かべるとスッと左手を伸ばして来た。その仕草の意味を悟った影人は更に困った顔になった。
「えーと・・・・・・取らなきゃダメですか?」
「言わせないでくれるかしら?」
「・・・・・・・・・・・・はあー、分かったよ。俺の負けだ。お手を拝借します、お嬢様」
影人はため息を吐くと、困ったように笑いシェルディアの手を取った。そして、シェルディアはそのまま影人と軽く上品に腕を組んだ。
「おい、何を影人と腕を組んでるんだ吸血鬼。今すぐ影人から離れろ。殺すぞ」
その光景を見た零無が殺意のこもった目をシェルディアに向ける。だが、シェルディアは涼しい顔で、
「やれるものならどうぞ。ふふっ、こういうのを負け犬の遠吠えというのかしらね」
と言葉を返した。その言葉を受けた零無は「チッ、クソが」と不機嫌な顔でそう言葉を吐き捨てた。
「・・・・・・早速胃が痛くなってきたぜ・・・・」
そのやり取りを聞いていた影人はポツリとそう言葉を漏らした。
そして、影人たちはパーティー会場へと向かった。




