第1463話 パーティーの準備(2)
「じゃあな零無。今日も午後の3時半過ぎに学校が終わるから、それまで適当に街ふらついてろよ」
マンションを出たタイミングで、影人は零無にそう言った。零無に憑かれて以来、影人が学校に行っている間は影人は零無と離れるようにしている。それは単純に影人が授業に集中出来ないからだ。留年生は当たり前だが、余計に授業に集中しなければならない。
「分かったよ。全く、この時間だけは苦痛で退屈だな」
影人にそう言われた零無は仕方なさそうに頷いた。そして、零無はユラリとどこかへ姿を消して行った。それを見届けた影人は、学校へと向かい始めた。
『あの神様も随分と丸くなったな。ちょっと前までとは別人だぜ』
すると、今度は影人の中にイヴの声が響いてきた。それは、ソレイユへの力の再返還がまだ済んでいない事を示していた。
ちなみに、影人の半径1メートル以内にペンデュラムがある時のイヴは、影人と同化しているのと同義なので、零無の認識が可能だった。ゆえに、先程の影人と零無の会話をイヴはしっかりと聞いていた。
「今の話のどこを聞けばその結論に至るんだよ・・・・・・」
イヴの言葉に影人は少し呆れたようにそう言った。
『でも、普通にそうだろ。確かにお前なんかが好きな変わり者でヤンデレだろうが、それでも前よりは随分マシに見えるぜ。憑き物が落ちたって感じだ』
「そりゃまあ・・・・・・あのタイミングで多少は改心しなきゃ嘘だろ」
続けられたイヴの言葉に、影人は今度はそう言葉を返した。
正直に言うと、零無があの戦い以後に変わったというのは――影人的には昔に多少戻った感じだが――事実だ。今イヴが言ったように、憑き物が落ちたという表現がかなりしっくり来る。
「まあ冗談は置いといて・・・・・・もしかしたら、『影闇の城』の効果かもな。『影闇の城』は対象の魂を1度まっさらに浄化するから」
影人は考えられる具体的な理由を思いつくと、そう呟いた。
「もちろん、本来の意味はそういった情熱だとか感情を浄化するって意味じゃない。魂に刻まれた特性とか、その人物の特性なんかを無効化するって意味だ。だから、ちょっとオカルト的で空想的な推測だがな。だが・・・・・・そういう理由の方が面白くないか?」
『けっ、ロマンチストかよ』
「はっ、俺はロマンチストじゃねえよ。ただ、想像の翼を持つ1人の人間なだけだ」
続けられた影人の説明を聞いたイヴは白けたといった感じでそう言った。イヴにそう言われた影人は、フッと気色の悪い笑みを浮かべた。
そして、イヴとそんな話をしている内に、影人は学校に到着したのだった。
「嫌なイベントがある時に時間が過ぎるのはマジで早いよな・・・・・・」
午後6時。すっかり学校を終え、自宅の自分の部屋でくつろいでいた影人は、部屋にある時計を見ながらそう呟いた。影人は取り敢えず黒のパーカーに灰色の長ズボンという格好で、ポケットにスマホと財布、後は一応ペンデュラムも入れて家を出た。
「ふふっ、ワクワクするな影人」
「俺は全くだ」
自分の隣の空間に浮かぶ零無に言いながら、影人はシェルディア宅のインターホンを押した。すると、数秒後ガチャリとドアが開けられ、シェルディアが現れた。




