第1457話 ある感情の行方(4)
「はあー・・・・・・お前と話すとまた疲れて来たぜ」
「そうかい? ふふっ、吾は逆に楽しくてしょうがないがね」
「俺は楽しくねえよ。ったく、本当に何で昨日の俺はあんな事を・・・・・・」
昨日の自分の決断を珍しく後悔するように、影人はそう呟いた。昨日の自分は完全に、明らかにおかしかった。恐らく、この事は一生後悔するのだろうなと影人は思った。
「ていうか、お前俺の中にある魂のカケラどうするつもりだよ。普通に今もずっと俺の中にあるんだろ。そろそろ回収してくれよ」
影人は零無にそう話題を振った。有耶無耶のようになっているが、影人の中には零無の魂のカケラがある。そのカケラは零無の影の形をしている。つまり、零無との因縁が一応決着しても、影人の中にはあの影がまだいるのだ。別に影響という影響はないのだが、少しスッキリとしない。ゆえに、影人はそう言った。それに対して、零無はこう答えた。
「確かに、吾の魂のカケラは未だにお前の中にあるよ。回収する事も、もちろん可能だ。だけど、今の方が素敵じゃないかい? だって、お前の中には常に吾がいるんだぜ。確か、今の言葉だとこう言うんだろ。エモいと」
「おいふざけんな。何がエモいだ零無てめえ。そんなクソみたいな理由で俺の中に魂を残すな。出来るならさっさと魂回収しやがれ」
そんな零無の言葉に前髪野郎は軽くキレた。本当にふざけた理由だったからだ。だが、零無はニコニコとしながらこう答えを返して来た。
「まあまあ、今はまだいいじゃないか。害はないわけだし。ああ、楽しい。楽しいなあ。やっぱり、お前と話している時が1番楽しいよ」
「ダメだ。話が通じねえ・・・・・・泣きそうだ・・・・・・」
ポワポワと幸せオーラを振り撒く零無を見た影人は、どこか絶望したように右手で顔を覆った。これが昨日マジの殺し合いをした相手である(まあ、零無は影人を殺そうとはしていなかったので、殺し合いとは言えないかもしれないが)。
「ああ、そうだ。影人、1つお前に言っておく事がある。この前はお前との会話の勢いで押されてしまったが、よくよく考えてみれば、吾の封印がなかった事になったのならば、お前が吾を封じるために支払った代償も戻っているはずだ。つまり――」
零無が何かを言い切る前に、しかし影人はこう言葉を割り込ませた。
「・・・・・・分かってるよ。『終焉』の力を自覚した時に、その可能性も理解したからな。だから、それ以上は言わなくていい」
「そうか・・・・・・分かったよ。お前がそう言うなら、吾はこれ以上言うまい」
影人の言葉を聞いた零無はそう言うと、少し意地が悪そうな顔でこう言葉を続けてきた。
「なら、お前はこれからどうするんだい? なんにせよ、選択肢は増えたわけだ。ふふっ、つまりまた吾にもチャンスがあるって事だ。しかも、お前と吾の距離は物理的にも近いと来ている。やったぜ」
「お前まだ俺の事諦めてなかったのかよ・・・・・・その執念だけはやっぱり凄まじいな。だが、悪いな。今の俺にはそんな気はねえよ。やり方も知らないし、それに・・・・・・」
影人はフッと気色の悪い笑みを浮かべると、こう言葉を述べた。
「一匹狼にそんなもんは似合わない。俺はただ孤高に己が牙を研ぎ続けるだけだ」
「おおう・・・・・・影人、お前吾が知らない間に随分と独特な奴になったなあ・・・・・・」
「うるせえよ。俺は俺だ」
若干引いたような顔になった零無に、影人はそう言葉を返した。その言葉には、前髪野郎が前髪野郎である理由の全てが詰まっていた。
「ああ、あと零無。あの人の呪いは・・・・」
「もちろん既に解いてあるよ。ただ、生死や詳しい場所までは分からないな。・・・・・・すまないがね」
影人がふと漏らしたその言葉に、零無はどこか申し訳なさそうにそう答えた。あの人というのが誰なのか、零無にはすぐに分かった。
「生死もか?」
「ああ。あの呪いは被呪者に関する情報とリンクさせていなかったからね。あの時の吾にそこまでの余裕もなかったし・・・・・・だから、吾には解呪したという事しか分からないんだ」
影人が端的にそう聞き返す。零無は影人にそう説明した。
「・・・・・・そうか。分かった。まあ、そう簡単にくたばるような人じゃないし、多分まだどこかで生きてるだろう。取り敢えず、その辺りの事を聞くアテはあるし・・・・・・今はもう少しだけ後に考えるか」
そんな話をしている内に、影人は自分の家があるマンションの前まで来ていた。だが、マンションの前には見知った3人の女性がいた。
「あ、おかえりなさい影人」
「ふん、愚か者が来たか」
「来ましたね、影人・・・・・・!」
1人はブロンドの髪に豪奢なゴシック服を纏った人形のように美しい少女。1人は長い白髪に西洋風の黒い喪服を纏った女。1人は桜色の長髪に髪と同じワンピースを着た女だ。3人はそれぞれ影人の姿を見ると、そう言ってきた。
「げっ、何でその組み合わせでマンションの前に居るんだよ・・・・・・嬢ちゃん、レイゼロール、ソレイユ・・・・・・」
そこにいたのはシェルディア、レイゼロール、ソレイユの3人だった。3人の姿を見た影人は、何か嫌な予感を抱きつつ、そう言葉を漏らした。




