第1455話 ある感情の行方(2)
「ふう・・・・・・ご馳走様でした。ふぁ〜あ・・・・・・腹膨れて来たら、また眠くなってきたな・・・・・・」
手を合わせた影人は大きなあくびをすると、水筒のお茶を一口飲んだ。さて、ここで寝てしまう前に教室に戻るか。そう思い影人が立ちあがろうとすると、
『――影人。今少しいいですか?』
イヴとは違う女の声が影人の中に響いた。
「ああ・・・・・・? なんだよソレイユ」
影人はその声に全く驚いた様子なくそう呟いた。自分の中にソレイユの声が響くのは久しぶりだが、スプリガン暗躍時代の事もあって、影人に違和感は全くなかった。
「力の再返還についてか? だったら、悪いがまた後日にしてくれ。今日はちょっと疲れ過ぎて無理だ」
ソレイユの話の内容を予想した影人はそう言ったが、しかしソレイユの答えは違っていた。
『ああ、いえ。その事で話しかけたわけじゃないんです。無論、その事も重要ではありますが、その話はあなたが言ったように、また後日という事で』
「? じゃあ、何の用だよ?」
予想が外れた影人が、不思議そうな顔を浮かべながらソレイユにそう質問する。それ以外でソレイユが自分に念話してくる理由を影人は思い付かなかった。
『その、用という程の事ではないんですが・・・・・・ええと、実は――』
そしてソレイユは、影人に自分が念話をした理由を話した。
『――という事なんです。もちろん、今はまだ計画の段階なので、詳しい参加人数や場所の確保などは出来ていません。ですが、どうでしょうか? きっと素敵なものになると思いますよ』
ソレイユが明るい声で話をそう結ぶ。ソレイユの話を聞いた影人は、即座にこう言った。
「いや、いらねえ。というか、そういうのマジでやめてくれ。俺そういうの死ぬほど嫌いだから」
『え!?』
影人の答えを聞いたソレイユは、影人のその答えと答えのあまりの早さの2つに驚きの声を漏らした。
『え、な、何でですか!? そこはいいなって言うところでしょう!?」
「てめえの感性を俺に押し付けるなよ。俺、本当そういうの無理だから。ハッピーバースデーって言われるの死ぬほど嫌いなタイプだし」
軽い叫び声を上げたソレイユに、影人は心底嫌そうな顔を浮かべそう言葉を返す。その言葉を聞いたソレイユは、『ああもう、相変わらず捻くれてますねあなたは!』と少しキレたような言葉を放った。
『別にこれくらいは分かったって言ってくださいよ! お願いですから!』
「いーやーだ。マジで絶対に嫌だ。本人が嫌だって言ってんだから、そこは逆にお前が分かれ」
『ぐぬぬ・・・・・・この分からず屋! あなたのそういうところ、本当嫌いです!』
「おうおう嫌え嫌え。俺もお前のすぐキレるところ嫌いだし」
『このバカ前髪! 性格破綻者!』
何やかんやあって、完全にいつもの流れを象徴するように、ソレイユが怒りの蔑称を叫ぶ。それを聞いた影人は軽くブチギレた。
「は? んだとクソ女神! お前って奴は本当性格終わってやがるな! ふざけやがって! 今すぐ地上に降りて来い! 拳で決着つけようじゃねえか!」
『私はあなたみたいな野蛮人とは違うんですー! 悔しかったらあなたが神界まで来たらどうですかー?』
「ぷぷっ、何だビビってんのかよ? 情けねえー!」
『ああん!? 誰がビビってるですって! 上等じゃないですかこのバカ前髪! 首洗って待ってなさい!』
そんなこんなで、いつもの口喧嘩が5分ほど続いた。ソレイユと念話で口喧嘩をしているという都合上、前髪は1人でキレて叫んでいるという、110番直行コースみたいなムーブをしていたが、幸いな事に前髪の近くに人はあまりいなかった。まあ、遠くから影人の奇行を見てしまった生徒たちは、即座にその場から逃げ去ったが。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・と、とにかくそういう事だ。分かったら、もうそんな事言って来るなよ」
言い合いに疲れた様子で、最後に影人はそう言った。影人のその言葉に、ソレイユはこう言葉を返した。
『はあ、はあ、はあ・・・・・・あ、あなたがそう言うなら、こちらも方法を考えるだけです。取り敢えず、今日はこれくらいにしてあげます。では、また』
「方法を考える? おい待てソレイユ。それはいったいどういう意味だ?」
ソレイユの言葉の一部分に疑問を感じた影人はそう聞き返したが、ソレイユは答えなかった。このまま無視を決め込むつもりだと察した影人は、軽く舌打ちをした。
「ちっ、あの野郎・・・・・・はあー、仕方ねえ。今は考えるのすら面倒いからな。こっちも放っておくしかねえか」
ソレイユとの口喧嘩で更に疲れた影人はそう呟くと、教室へと向かった。
――ちなみに、腹も膨れ更に睡魔が強力になったために、前髪はこの後の午後の授業を全て爆睡した。




