第1450話 影人と零無、因縁の決着(1)
「っ・・・・・・」
影人の右手が零無の胸部に灯る魂に触れる。その瞬間、フッと零無の胸に灯る魂が消えた。崩壊を始めている影人の『世界』が原因で消えたのではない。零無の魂が消えたのは、影人が触れた瞬間に決定を下したからだ。死という決定を。
「はあ、はあ、はあ・・・・これで・・・・終わりだ零無・・・・・・俺たちの因縁も・・・・・・」
影人はそう言葉を絞り出すと、『世界』を解除した。途端、周囲の光景が元の世界に戻る。影人のスプリガンとしての力も限界を迎え、影人の変身が強制的に解除された。
同時に、影人の体にどっと今までの疲労が押し寄せる。影人は全身の力が抜けてしまい、立っていられずにその場に尻餅をついた。零無もそのまま力ない様子でドサリと、大の字に地面に倒れた。
「「帰城くん!」」
戦いが終わった事を理解した陽華と明夜が、影人の元へと駆け寄ろうとする。だが、そんな2人にシェルディアは待ったの声を掛けた。
「待ちなさい陽華、明夜。まだ、まだダメよ」
「え、な、何でシェルディアちゃん・・・・・・?」
「戦いはもう終わったでしょ・・・・・・? 帰城くんの勝利で・・・・・・」
シェルディアの言葉に、陽華と明夜は意味が分からないといった顔を浮かべる。シェルディアは少し悲しそうな声で、2人にその答えを返した。
「まだ済んでいないからよ。影人と零無の・・・・・・お別れが」
「「っ・・・・・・」」
シェルディアの答えを聞いた2人はハッとしたような顔を浮かべ、シェルディアと同じような、少し悲しげな顔になり、影人と零無を見つめた。
「はあ、はあ・・・・俺の勝ち・・・・だぜ、零無・・・・」
影人は息を荒げながら、元の長さに戻った前髪、その下にある両目を零無に向けた。その言葉を聞いた零無は、仰向けになりながらこう言った。
「ああ・・・・・・どうやら、そうみたいだね・・・・・・」
零無はそれから少しだけ間を開けて、こう言葉を続けた。
「ふ、ふっ・・・・・・やっぱり、お前は凄いよ。本当に、大した人間だ・・・・・・普通なら、絶対に人間にあの精神攻撃は耐えられないはずなのに・・・・・・お前は耐えた。そして・・・・・・吾に勝った。正面から、真っ直ぐに・・・・・・不可能を可能に、条理を破った・・・・・・全く、本当にお前という奴は・・・・・・」
自分の中から消え行くもの、命もしくは魂を感じながら、零無は小さく笑った。その笑みは、悲しそうでもあり、呆れたようなものであり、そして嬉しそうなものでもあった。
「ふん・・・・・・よりにもよって、俺に精神攻撃なんかするからだ。まあ、そういう状況にしたのは俺だがな・・・・・・悪いが、俺は精神の、心の強さだけは自信があるんだよ・・・・・・」
ようやく息を整えられてきた影人が、零無にそう言葉を述べる。その言葉を聞いた零無は、変わらず小さな笑みを浮かべた。
「はは・・・・・・そう、だな・・・・・・うん・・・・・・お前の言う通りだ・・・・・・でも、不思議なものだ・・・・・・初めて会った時・・・・・・泣きじゃくっていた人間が・・・・・・まさか・・・・・・吾を封じ、吾を斃すなんてな・・・・・・」
7年前の事を思い出しながら、零無はそう呟いた。全く思いもしなかった。まさか、自分という不滅のはずの存在を終わらせるのが人間だなんて。本当に生というものは、何が起きるか分からないものだ。




