第1448話 真なる神を斃せし者(3)
「帰城くん!?」
「っ・・・・・・!」
その光景を見ていた陽華が思わず声を上げる。陽華の隣にいた明夜も心配するような顔を浮かべる。だが、2人は影人を助けには行かなかった。今自分たちが戦いに介入しても、逆に足手まといになるから。それに、
「・・・・・・大丈夫よ、陽華。帰城くんは絶対に勝つ。だから、私たちは最後まで信じ抜くのよ。帰城くんの勝利を・・・・・・!」
「・・・・・・うん、分かってる明夜。帰城くんなら絶対に勝つ。私たちも、みんなもそれを信じてるから・・・・・・!」
2人は影人の勝利を信じていた。信じ切っていた。今自分たちが出来る事は、影人の勝利を信じただ見守る事だけ。それだけだ。
「ええ、影人は絶対に勝つわ。さっきまでとは違う。暗い感情に支配されずに、普段の自分に戻った影人なら。なにせ、影人は私が知る最も精神が強い人間なのだから」
2人に続くように、シェルディアもそう言葉を述べる。
「・・・・・・何も心配はいらない。僕が心の底から尊敬し、憧れる君だから。君は絶対に勝つ。僕は確信しているよ」
「ふん・・・・・・さっさと勝てよ、影人」
他の場所では光司やレイゼロールもそんな言葉を漏らしていた。そして、
「・・・・・・勝って、影人。他の誰でもない、あなた自身のために」
ソレイユも。ソレイユはギュッと胸の前で両手を握り締めた。祈るように。
『クソが・・・・・・!』
零無に蹴り飛ばされた影人は城の壁には激突する事なく(基本的に今の影人に物質は干渉出来ないので)、そう毒づいた。
(『世界』を顕現してる状態の俺をほとんど一方的にボコすかよ・・・・! どんだけ化け物なんだ・・・・・・!)
ごく普通に圧倒されている。これが本気の零無。今まで戦った全ての者たちと比べても、その力は隔絶している。そう思えるレベルだ。
(これで全盛期の半分で、力の一部を使えないんだから終わってんな。それに加えて、『影闇の城』を顕現出来る時間もあと3分くらいか。今のままだと、ジリ貧だな・・・・・・)
決定打を打たなければ。そうでなければ、この戦いには勝てない。
(・・・・・・仕方ねえ。この方法は最後の最後にと考えてが、やるしかねえか。幸い、零無の奴もあの状態は長くは続かないって言ってたからな。あいつも乗ってくるだろう)
もちろん、零無の言葉がブラフという可能性もあるにはある。だが、零無は基本影人相手に嘘はつかない。少し奇妙な話だが、影人にはその確信があった。
(外せば最後。負けは確定。一世一代の博打か。ったく、俺の人生は一世一代の博打が何回あるんだかな・・・・・・)
つい笑ってしまう。本当にどうしてこんな星の下に生まれてしまったのだろうか。
だけれども、それも含めて自分なのだ。ならば、自分はただやり切るだけ、自分を生き抜くだけだ。影人はそう思った。
『お前をぶん殴れなかった事だけは残念だが・・・・・・まあいい。零無、悪いが次で最後の攻防にさせてもらうぜ』
玉座の上に立った影人が零無に向かってそう宣言した。影人の言葉を聞いた零無は「おや」と声を漏らした。
「勝負を焦っているのかな? だとしたら、吾がわざわざそれに付き合う義理はないな」
『誤魔化すなよ。お前もそろそろ限界だろ。そんなチート状態そう長く続くはずがねえ。俺の限界時間とどっこいどっこいのはずだ』
「ふふっ、流石に目敏い。だが、何よりも嬉しいのは、お前が最初に言った吾の言葉を信じてくれる点だね。ああ、嬉しい。嬉しいなあ」
零無は心の底から嬉しそうな笑みを浮かべると、こう言葉を続けた。
「いいよ。ならば、吾もお前に応えよう。どのみち、お前の言う通り吾の残り時間も少ないのは事実だからね。よし、では次が最後の攻防だ」
零無は頷くとスッと自身の右腕を水平に伸ばした。すると次の瞬間、零無の右手が眩い透明の輝きを放った。




