第1447話 真なる神を斃せし者(2)
「おっと」
『どうせお前の事だ。その蹴りも今の俺に届くんだろ。だから、喰らうわけにはいかねえな』
自分の右足が空中で縛られた事に零無は少し驚いた顔を浮かべた。そんな零無に、影人はそう言葉を述べると左手を零無の胸部に伸ばした。
「よく分かってるじゃないか。でも、吾もそれを喰らうわけにはいかないね」
零無は一瞬にして右足を拘束していた鎖を引き千切ると、後方へと跳んだ。むろん、鎖を引き千切ったのは純粋な力だ。
『馬鹿力が。紙屑みたいに引き千切れるもんじゃねえぞ、それは』
「だろうな。この鎖を純粋な力だけで壊せるのは相当に限られた者だけだ。まあ、吾はその限られた者の1人だったというだけよ」
後方に跳んだ零無が、先ほどと同じ透明な輝きを放つ剣を創造した。その数は先ほどよりも多い10本。10本の剣は、ほとんど不可知の速度で影人に向かった。
『っ・・・・・・』
その10本の剣の速度は、眼を闇で強化している影人でも尋常ではない速度に映る。10本全ての剣を避け切る事は、今の影人にも出来ず、影人は2本の剣をその身に受けた。影人は激痛に再び顔を顰めながら、2本の剣を体から抜いた。
「ふふっ、また受けてしまったね。気が狂いそうなほどに痛いんじゃないか? さっさと倒れてしまった方が楽だと思うくらいに」
『お前を斃すまではもう2度と倒れねえよ・・・・!」
ニヤリと笑う零無に影人はそう返事をすると、再度突撃をかけた。結局のところ、影人は零無に近づき触れなければ勝てない。だから、影人は常に攻めの姿勢で零無に向かう。
「気概は立派だが、それが出来ないのが人間だよ・・・・・・!」
零無が虚空から透明の輝きを放つ鎖を呼び出し、それを影人へと放つ。あの鎖も、零無が全ての力を解放してからの例に漏れず、今の影人に干渉してくるものだろう。影人は自身も影闇の鎖を虚空から呼び出すと、その闇色の鎖を透明の輝き放つ鎖に向かわせた。
『フッ・・・・・・!』
鎖を潜り抜けた影人が今までと同じように、零無の胸部に手を伸ばす。その影人の攻撃を、しかし零無は今までと同じように回避せずに、左手で掴んだ。
『っ・・・・・・』
「この手が触れて効果を発揮するのは、吾の胸部に灯る魂のみだろ? なら、それ以外は触れてもいいわけだ」
零無はそう言うと、自身の周囲から透明の鎖や剣を呼び出した。いずれも輝きを放つそれらを超至近距離から影人に向かわせながら、零無は右の拳を影人に放った。
『接近戦か。そうだな、てめえを殺す前に、1発くらいはぶん殴っておくか』
影人も自身の周囲から影闇の鎖や闇色の剣を複数呼び出し、それで以て透明の鎖や剣の迎撃にあたらせながら、零無の右拳を左手で受け止めようとした。
『っ!?』
だが、零無の拳の力は到底止められるようなものではなかった。その事に気づいた影人は咄嗟に拳を受け止めるでなく、逸らせる事を選択した。
「おお、やるね」
零無はそう呟くと、左の前蹴りを影人の腹部に放った。その蹴りを、影人は反応しきれずにまともに受けてしまった。
『っ〜!?』
まるで腹部が巨大な柱に貫かれたような、内臓が飛び散ったような痛みが影人を襲う。影人は後方へと吹き飛ばされた。




