第1444話 神と影は己を信じ、ただ笑う(3)
影人は自身の精神を研ぎ澄ませた。これを使うのは2度目だ。最初に使った時は半ば裏技的に使い、その間しばらく影人はこれを使えなかった。だが、シェルディアとの『世界端現』の修行を通して、また死の経験によって死を理解した事によって、影人はそれを再び修得していたのだった。
「――全ての者はこの城へと帰城する」
言葉が世界に響く。それは始まりの言葉だった。
「っ!?」
その言葉を聞いた零無がその顔を驚いたものに変えた。レゼルニウスの記憶を見た零無には、影人が唱えた言葉が何を意味しているのか、いや影人が今から何をしようとしているのか分かったからだ。
「そう・・・・・・使うのね影人。それを・・・・・・」
一方、影人と零無の会話を少し離れた所から耳を傾けていたシェルディアは、そう言葉を漏らしていた。シェルディアもその言葉の意味を理解している者だったからだ。影人は切り札を使用するつもりだ。
「現世絶界。幽界絶界。天界絶界。地の獄絶界。煉獄絶界。三千世界、合わせて万世絶界。総じて全界絶界」
続く言葉は全てから断つ言葉。
「全ての者がいずれ辿り着く魂の終着点。何処の世界より絶たれた影と闇の城よ。我が本質を以て顕現せよ」
その次の言葉は、今から現すそれを定義し決定づける言葉。
「・・・・・・いいぜ影人。お前のそれを、最後の切り札を受け止めてやろうじゃないか。正面からな」
影人の唱える言葉を聞き続けていた零無は、自身も覚悟を固めたような顔を浮かべた。零無は言葉通り、影人を妨害するような事はしなかった。
「『世界』顕現、『影闇の城』」
そして、影人はその言葉を放った。次の瞬間、影人の背後から全てを塗り潰すような闇が放たれ、一瞬にして世界を侵食した。
一瞬、世界が完全なる闇に包まれる。そして数秒後、薄明かりと炎が灯り始めた。その明かりと炎が『世界』を照らす。
天井はぼんやりとした明かり、地上には規則的に並ぶ蒼炎の松明。それらが照らすのは、どこかの室内のような広大な空間。闇色の柱や装飾が所々に見て取れる大広間のような場所。そして、その場所を取り囲むように周囲には2階があった。その光景は西洋の城、その城内を想起させた。
「え!? う、うわ何これ!? ここどこ!?」
「お、落ち着きなさい陽華! 多分あれよメゾネットよ!」
いきなり2階の周縁部に移動させられていた陽華と明夜がそんな反応を示した。周縁部には2人だけでなく、シトュウやソレイユやラルバといった神々、光導姫や守護者、闇人たちなどあの戦場にいた全ての者たちがいた。大部分の者たちは、2人と同じように何が起きたか分からないといった顔を浮かべていた。
「全く違うわよ明夜。ここは影人の本質、それを以て顕現した『世界』よ。私もここに来るのは2度目だけど」
混乱している2人にそう言って来たのは、シェルディアだった。いつの間にか真祖化を解除したシェルディアは、コツコツと靴音を響かせながら、2人の方に歩いて来た。
「せ、『世界』・・・・・・?」
「帰城くんの本質を以て顕現・・・・・・?」
「ふふっ、難しいかしら? だったら、影人の必殺技とでも思えばいいわ。・・・・・・まあ、影人の場合は文字通りなのだけれどね」
シェルディアの説明を受けても陽華と明夜は、頭に疑問符を浮かべていた。そんな2人の反応にシェルディアは小さく笑うと、説明を噛み砕いた。
「これが帰城影人の『世界』・・・・・・」
「影人、お前はやはり・・・・・・」
陽華や明夜とは少し離れた場所で、シトュウやレイゼロールもそんな言葉を漏らした。2人とも、当然ではあるが影人の『世界』を見るのは初めてだった。




