第1443話 神と影は己を信じ、ただ笑う(2)
「影人! 来たかよ!」
そんな影人に気づいた零無が笑みを浮かべる。影人は零無に『終焉』の闇を放った。
「ははっ、当たらないよ! 光の女神から神力を再度譲渡されたようだが、格は吾の方が圧倒的に上だ! さっきよりはマシにはなるだろうが、所詮は無駄な事だぜ!」
闇を回避しながら零無が影人にそう言葉を放つ。影人はその言葉に対し、こう答えを返した。
「はっ、確かにてめえの言う通りだ! それは認めてやるよ! だがなあ! それがどうした!? そんなもんは何の意味も持たない! 俺がスプリガンである限り! そんなもんは全部超えてやるッ! それが俺だ!」
影人が不敵な、それでいてどこか楽しげな笑みを浮かべながら、零無に闇色の鎖を放つ。それに対し、零無は透明の鎖を放った。
「支離滅裂な精神論かい!? そんなもので、吾に勝てるわけねえだろ!」
「論じゃねえよ! こいつは意志だ! 未来を切り開く、人の力だ!」
透明と漆黒。2つの流星が縦横無尽に地を、空を駆ける。それと共に、透明と漆黒の鎖が絡み合い、透明と漆黒の武器が金属音を響かせ、透明と漆黒の怪物たちが互いを貪り合う。尋常ならざる光景が展開される。
「屁理屈だなあ! なら吾は力を以てお前に示してやろう! 吾の勝利をな!」
「示せるもんなら示してみやがれ! 俺もただ示すだけだ! 人の強さを! 想いの力を! 俺という人間を!」
零無と影人が己が魂の言葉を叫び合う。そして、影人と零無は地面に立つと、少し距離を空けながら互いを見つめ合い対峙した。
「・・・・・・その強さを、想いを、俺という人間の一端を今からお前に見せてやるよ。俺の心、想いの頂点、その完成形を。もう1人のお前から、あいつから教えてもらった方法で・・・・・・!」
「っ・・・・・・?」
影人は自身の『終焉』の力を解除した。途端、影人の姿が通常のスプリガン形態へと戻る。その光景を見た零無は不思議そうな顔を浮かべた。零無は影人がなぜ『終焉』を解除したのか、意味が分からなかった。
(見てろよ、もう1人の零無。俺は今から全てを終わらせる)
影人の中にいる零無の魂のカケラ。禁域の中の影を意識しながら、影人は内心でそう呟いた。正直に言えば、あれも零無に変わりはない。だから、影人はあの影が心底嫌いだ。憎んでもいる。
だが、あの影は先ほど意識を失っていた影人に呼びかけてくれた。目を覚ますように。励ますように。かつての優しかった時の零無のように。あの時はぼんやりとして分からなかったが、今の影人はあの時語りかけて来た声が誰だったのか理解していた。夢のようであったが、あれは確かに夢ではなかった。
「・・・・・・ありがとな」
ポツリと小さな声で影人はそう呟いた。未だに気持ちの整理は全くつけきれていない。だが、影人は気がつけばそう言葉を漏らしていた。そして、影人はその金の瞳で真っ直ぐに零無を見つめ、こう宣言した。
「さあ・・・・・・終わりにするぜ零無。俺とお前の戦いを。全ての因縁を」




