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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1441/2051

第1441話 黒衣の怪人、彼の名は(5)

「それで、ソレイユ。何でわざわざ神界なんかに来たんだよ? 今の俺には『終焉』がある。あいつらと一緒に戦えば・・・・・・」

 神界のソレイユのプライベートスペース。久しぶりにそこにやって来た影人はソレイユにそう聞いた。

「確かに、今のあなたには強力な力があります。零無と渡り合う事も可能な程の力が・・・・・・ですが、彼女相手にはそれだけでは足りないと私は思います。だから影人・・・・・・私はあなたに、()()()()()()と思います。かつてのあなたが振るった力を」

「っ・・・・・・!?」

 ソレイユが真剣な顔で影人にそう言った。ソレイユからそう言われた影人は、前髪の下の目を見開いた。ソレイユがどうして影人をここに連れて来たのかの理由が分かったからだ。

「そうか・・・・・・さっきの地上での言葉はそういう事か・・・・・・」

 納得がいったと感じで影人はそう呟いた。今全てを理解した。普段の影人ならば、地上での言葉だけでソレイユが何をしようとしているか気づけたかもしれなかったが、零無との戦いの事もあって、影人は普段よりも疲弊し鈍感になっていた。だから気づけなかったのだろう。

「・・・・・・ソレイユ、許可はシトュウさんに貰ったって言ってたが、その・・・・・・お前はいいのか? 今度はお前の目的は何にも絡んでない。それでも、お前は俺に自分の大切な力を託してくれるのか?」

 影人は今度はそんな質問をした。ソレイユが今から何をするか分かった上で、影人はソレイユの意志を確認したのだった。

「何を言っているんですか。他の者ならいざ知らず、あなたになら何の心配もなく託せますよ。あなただから託せるんです。レイゼロールを、そして私すらも、みんなの為に戦ってくれたあなただから。あなたは絶対にこの力を間違った事には使わない。私にはその確信があります」

 影人の問いかけに、ソレイユは何の迷いもなく笑みを浮かべそう言った。ソレイユの答えを聞いた影人は、自然と笑みを浮かべていた。

「っ・・・・・・はっ、そうかよ。ったく、仕方ねえな。そこまで言われたなら、受け取ってやるか」

「相変わらず捻くれた言い方ですね。ですが、ふふっ、やっと調子が戻って来ましたね」

 影人の言葉を聞いたソレイユが笑みを大きくした。そして、ソレイユは自身の両手を胸に当て、ギュッと手に力を込めた。

「ふっ・・・・・・!」

 すると、ソレイユの胸の内から無色透明の光が出てきた。ソレイユはその光を両手で持つと、影人の方に差し出してきた。

「さあ、影人。触れてください。触れたならば、あなたは力を得ます。特別な力を」

「ああ、あの時は望んじゃなかったが、今回は違う。俺はこの力を望むぜ。零無の奴に勝つために」

 ソレイユの言葉に頷いた影人が確かな意志を宿した手で光に触れる。

 次の瞬間、光は透明の輝きを放った。












「さあ、死ねよ!」

 零無が触れた者の力を封じる透明の鎖を、何百も召喚し敵対者たちに放つ。同時に透明の魑魅魍魎や、剣や槍といった武器、それらも何百何千と零無は放った。

「ちっ」

「流石に上位の神。尋常じゃない力の出力ね」

 その攻撃を『終焉』の闇で無効化したり、造血武器や影などで撃退していたレイゼロールとシェルディアがそんな反応を示す。2人の力を以てしても、零無の攻撃の全ては迎撃しきれない。迎撃しきれない攻撃は、その他の者たちへと向かった。

「っ、これはかなりキツイですね・・・・・・!」

「くっ・・・・・・!」

 フェリートやアイティレが攻撃を迎撃しながら苦しげな顔を浮かべる。基本的に、大多数の者たちは2人と同じような顔を浮かべていた。

「影人の時は殺さないようにやっていたがお前たちは別だ! さっさと死に晒せ!」

 力の出力を高め続けながら零無が叫ぶ。影人が消えてからまだ数分も経っていないというのに、既に戦場は地獄のような光景になっていた。

 だがそんな時、再び天から光の柱が降り注いだ。すると、その中から2人の人物が現れた。1人はソレイユ、そしてもう1人は影人だった。

「っ! 戻ったか!」

「っ! 影人!」

 2人が現れた事にレイゼロールが気付く。同時に零無も気がついた。零無は嬉しそうな顔を浮かべていた。迎撃に必死になっている他の者たちも、一部は気づかなかったが、大多数の者たちは影人とソレイユの出現に気がついた。

「少しだが待たせたな。さあ、第2ラウンドだぜ零無」

 影人はそう呟くとニヤリと笑みを浮かべ、右手に持っていた()()()()()()()()()()()()()()を正面に掲げた。

『――くくっ、よう随分と久しぶりだな。一応、女神サマの中からずっと見てはいたが・・・・・・もう2度とてめえと言葉を交わす日なんざ来ないと思ってたのによ』

「ああ、久しぶりだな。そうだな、俺もまたお前の声を聞けるなんて思ってなかったよ」

 突然頭の中に響いた女の声に、影人はそう言葉を返した。よく知った、懐かしい声だ。

「悪いが、また付き合ってもらうぜ相棒」

『俺に拒否権はねえんだろ。ったく、仕方ねえ。最悪だが付き合ってやるよ』

 影人の声に女の声はそう答えた。やれやれといった感じで。相変わらずだ。影人は自然と笑みを浮かべるとこう言った。

「よし、じゃあ久しぶりにやるか」

 そして、影人はその言葉を、力ある言葉を唱えた。

変身チェンジ!」

 影人がそう唱えると、ペンデュラムの黒い宝石が黒い光を放った。すると次の瞬間、影人の姿が変化した。

「! おやおや、これは・・・・・・どうやら、盛大な紹介が必要のようですねー!」

 その影人の変化に気づいたクラウンはニヤリと笑みを浮かべると、零無の放った攻撃を避けながら、戦場全体に届くような大声でこう喧伝し始めた。

「さあさあさあ! 皆さまご注目! 今この瞬間、かつての伝説が蘇る!」

「「「「「っ!?」」」」」

 クラウンの喧伝に思わずその場にいた全員が耳を傾ける。もちろん、自分が死なないように注意を払いながら。

「その者はかつて光と闇の間を揺蕩っていた謎の怪人! 圧倒的な力を持つただ1人の軍隊! 暗躍を続けた漆黒の妖精! 誰よりも強い意志を宿し、その果てに約束を果たし世界を救った者!」


 クラウンの声が世界に響く。自分を紹介するその喧伝を聞きながら、()()()は一歩を刻んだ。


「しかして、その者は英雄ヒーローに非ず! 影より助け守る者! 黒衣の怪人、彼の名は――!」


 鍔の長いハット状の帽子に黒い外套。胸元には深紅のネクタイを飾り、紺のズボンに黒の編み上げブーツ。その端正な顔は露わになり、その瞳の色は月の如き金。その男は右手で帽子の鍔を摘みながら、その瞳を真っ直ぐ正面に向けた。


「――スプリガン!」


 そして、クラウンはその男の名を叫んだ。帰城影人のもう1つの姿の名を。

 ――今この瞬間、スプリガンも2度目の帰還を果たしたのだった。

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