第144話 月下激戦(4)
「っ・・・・!? ソレイユ様の転移の光? なぜこのような時に・・・・・!」
提督は悔しげにその場で立ち止まると、恨めしそうな赤い目を向けながら、光に包まれ消え去った。
(やっとか・・・・・・・これで問題は1つ解決したな)
内心ホッと息を吐く。たった3分ほどの時間だったが、かなり密度の濃い時間であった。
(まあ、まだ問題は1つ残ってるが)
「提督は女神ソレイユに転移されましたか。まあ、私にとってはあなたとの1対1の方が好ましい状況なので助かりますがね」
提督がいなくなった事により、フェリートは地面に着地した。これで今度はフェリートと影人が向かい合う形になる。
「・・・・・・・・銃弾の追跡を逃れたか」
「ええ。あれは厄介でしたよ。結局、斬っても増えますし、逃げても無限に追いかけて来るので、デコイを使わせてもらいましたが」
フェリートが視線を上空に向けたので、影人も上空を見上げた。するとそこにはもう1人のフェリートが延々と複数の銃弾に体を貫かれている光景が浮かんでいた。
「分身・・・・・・いや、幻影か」
分身なら一定のダメージを与えれば姿は消える。それは影人が前回フェリートと戦った時に確認済みだ。おそらくあれはフェリートが作り出した幻影だろう。それが今フェリートが言ったようにデコイの役割を果たしているというわけだ。
(あのままじゃ埒が明かないな)
影人がパチンと指を鳴らすと、フェリートの幻影に群がっていた複数の銃弾は全て虚空に溶けるように消えていった。
それと同時にフェリートの幻影もその場で突如として姿を消した。
「さて、提督は離脱しましたから改めて言わせてもらいます。――スプリガン、私はあなたにリベンジをしに来ました。ああ、宣言しておきましょう。今日、私はあなたを殺します。決して逃がしはしません」
ニコニコと笑いながら、フェリートは影人に殺人宣言を行なった。しかし、目が全く笑っていない。その目がフェリートの本気度を、そして怒っているということを教えてくれる。
(主人のために・・・・・・・他人のために本気で怒れるか。はっ、お優しいことで)
多分だが、フェリートという闇人はある意味優しいのだろう。主人とはいえ、レイゼロールが傷ついたことに本気で怒っている。どのようなものであれ、それは優しさだ。
(ああ、苛つくな)
そして影人はそんなフェリートを不快に感じた。
いま自分に殺人宣言をした化け物が、何をのうのうと優しさを見せている。その態度が、その矛盾が影人をひどく苛立たせる。
(こっちは仕事でやってるだけだ。お前やレイゼロールのことなんかどうでもいいんだよ)
暗い感情が影人の中に湧き上がる。そしてその感情を察知した何かが少し蠢いた。だが、影人はそのことには気づいていない。
いま影人が思っているのは、目の前の人外をぶちのめしたいという事だけだ。
『影人! 提督は安全な場所に転移させました。つぎはあなたを――』
ソレイユの声が脳内に響く。どうやら提督を転移させ、次は影人を転移させようとしてくれているらしい。普段の影人なら、フェリートとの戦いなど面倒だ、戦う理由がないとすぐに転移を頼むだろう。
(悪いなソレイユ。転移はこいつをぶちのめした後で頼む)
だが、いまの影人はその転移を断った。今は感情が昂っている。
『影人? 何故ですか? フェリートと戦う理由はもうありません。ですから、あなたも早く――』
そして、そんな影人の返事を聞いたソレイユは訳がわからないといった声音で再び転移を促した。
(しばらく俺に話しかけるな)
『え・・・・・・・・?』
一方的な影人の無音の言葉にソレイユは驚いてるようだが、今はそれすらもどうでもいい。
「いいぜ、フェリート。またお前に敗北を刻んでやるよ」
影人はフェリートのリベンジ宣言に不敵にそう答えたのだった。




