第1438話 黒衣の怪人、彼の名は(2)
「っ・・・・・・」
目を開いた影人の視界内に黒い何かが揺れる。よく見てみると、それは自分の前髪だった。どうやら自分は通常の状態に戻っているようだ。
影人は体を動かそうとしたが出来なかった。見てみると、影人の全身は透明の鎖に拘束されていた。
「おや、もう起きたのかい。早いな、まだ3分も経っていないというのに」
影人が体を動かそうとしたのを見て、影人が意識を取り戻した事を悟った零無が正面からそう言葉をかけて来た。
「零無・・・・・・お前、何をしやがった」
「起きてすぐの言葉がそれかい。まあ、確かに気にはなるだろうが。いいぜ、どうせお前は詰んでるし教えてやろう。と言っても、大した事じゃないがね」
零無はそう前置きすると、影人を気絶させた方法を説明し始めた。
「吾はお前の足元の地面を1メートルほど軽く崩しただけだ。落とし穴を瞬間的に作ったと形容してもいいな。そして、お前は土の中にあった石に頭をぶつけて気絶した。それだけだよ。意識が一瞬でも途切れれば、『終焉』の力は解除されると知ってたから、それを狙った。今お前が拘束されているのは、そういうわけだ」
「っ・・・・・・そういう事か。その口ぶりからするに、偶然じゃなく狙ってやったんだな・・・・・・?」
「当然。お前の疲弊が限界の限界に至るまでの瞬間は窺っていたし、お前が地面を崩し転けた場所に石がある事も、透視で確認済みだった。だから、吾はその石がある1メートルに、崩した地面の深さを設定したのさ」
零無が補足するようにそう言葉を述べる。なるほど。確かにその方法ならば影人にダメージを与える事は可能だ。地中には大小様々な石が埋まっているだろうし、穴の深さを調整出来るならば、充分に狙えるやり方だ。
「・・・・・・お前は『終焉』の力の事をよく知ってる。だからか、《《この方法を思いついたのは》》」
「ああ。全てを終わらせる力『終焉』。その闇は全てのモノを阻む絶対の剣であり盾。それに間違いはないよ。だけど、そこには1つだけ例外がある。それが、《《無意識下での選別》》だ。例えば、地面。『終焉』状態のお前は地面に接しているのに、自身が立つ地面に『終焉』の力は及んでいなかった。なぜなら、地面が終われば地面は崩れる。つまり、自分が困る。ゆえに、お前は『終焉』を無意識下では地面に発動させていなかった。むろん、意識的に使えば、地面も『終焉』の力は受けるがね」
「・・・・・・そうだ。だから、俺は倒れた時に頭を打った石も『終焉』の力で無効化出来なかった。そもそも、無意識下での選別が及んでないからな。俺がダメージを受けたのはそのためだ・・・・・・」
受け継いだレゼルニウスの知識を意識しながら、影人は零無の言葉に頷いた。『終焉』の唯一の弱点。いや、本来ならば弱点ともいえないようなそれを零無は突いたのだ。
ちなみに言っておくと、あくまで『終焉』を選別出来るのは、無機物に限っての話だ。命ある者は選別出来ない。後は、無意識下で選別しているのならば、意識外からの攻撃は通用するのではないか、という疑問もあるだろう。その疑問は、だが否である。
戦闘中ならば必ず攻撃が来ると分かる。それが意識外からの攻撃でも。この時点で無意識下では、「攻撃は『終焉』の力を及ぼすもの」という選別が既になされている。ゆえに、例え意識外といえども攻撃が影人に届く事はない。
だが、先ほどの石は、そもそも影人は攻撃とすら認識していなかった(そこに存在しているとも知らなかったが)ので、影人は石の直撃を受けたのだった。




