第1433話 さあ、過去の因縁に決着を(1)
「っ・・・・・・? 殺した・・・・・・? お前を止めようとしていた者たち全てを・・・・・・?」
「そう言ってるだろ」
何気ない様子で衝撃的な事を言った影人に、流石の零無も少し驚いたような顔を浮かべた。そんな零無に、影人は改めてそう言葉を返した。
「は、はははっ! 冗談ではなさそうだ。という事は、本当に殺したのかそれだけの数の者たちを。くくくっ、そうかそうか。ははははははははははははははははっ!」
零無は堪え切れないといった様子で哄笑を上げた。
「壊れてるなあ影人! やっぱりお前は普通じゃないぜ! ああ、そんなところも愛おしい! 安心しろよ影人! 悲しむ事はない! 吾がお前の新しい帰る場所になってやるからなあ!」
「・・・・・・別に帰る場所を無くしたわけじゃない。俺が帰る場所は永劫に変わらねえ。少なくとも、お前の所じゃない。余計なお世話だ」
興奮したような、嬉しそうな様子で零無が言葉を飛ばす。そんな零無とは対照的に、影人はどこまでも冷たい様子だった。
「それよりも、無駄なお喋りはここまでだ。そろそろ始めようぜ。俺とお前の・・・・・・最後の戦いを。解放――『終焉』」
影人はそう呟き、力を解放する言葉を放った。すると、影人の体から凄まじい闇が噴き出した。それに伴って影人の姿が変化する。黒髪は長髪に変化し、前髪の長さが変化し影人の顔が露わになる。そこから覗く影人の両の目の色は、光すら通さぬ漆黒。右の肩口には右半身を覆うように、黒と金のボロボロの布切れのような物が纏われる。
「レゼルニウスから継承した『終焉』の力・・・・・・この力でお前を殺す。お前が創った奴の力で殺される。皮肉だろ?」
力を解放した影人が酷薄な笑みを浮かべる。その笑みには今の影人の姿も相まって、死の美しさ放つ人ならざるモノに見えた。
「ははっ、その力でお前を止めようとした者たちを全て殺したか。確かに、もしそうなれば皮肉だな。だがなあ影人・・・・・・」
零無は超然的な笑みを浮かべると、その身から透明のオーラを放ち始めた。
「果たして、お前は吾に勝てるかな? この絶対無窮たる存在である吾に。神をも殺す力を手に入れたといっても、人間の軛に縛られているお前如きが」
「抜かせ。その人間に1度封印されたのはどこのどいつだ。今回もまたてめえに教えてやるよ零無。人間の底力って奴を」
透明の瞳と漆黒の瞳が互いに交わる。両者ともにその瞳に様々な想いを乗せながら。だが、両者に共通している感情が1つだけあった。それは狂気。零無は狂愛を。影人は狂えるほどの殺意を。互いに抱いていた。
「・・・・・・今日ここで、俺とお前の因縁に決着をつける」
「いいや、吾とお前の関係はこれかも未来永劫続くよ。さあ、最初で最後の夫婦喧嘩といこうじゃないか」
両者がその瞳を細める。狂気と狂気がぶつかり合う。始まるのは、1人の人間ととある神の全てを懸けた戦い。過去の因縁が紡ぐ、2人だけの最終決戦。
「ここが終わりだ」
「ここからが始まりだ」
影人と零無はそう呟くと地を蹴った。
影人と零無。その戦いが、遂に始まった。




