第1431話 鏖殺者、帰城影人(4)
「っ・・・・・・」
レイゼロールの蹴りは重かった。影人はつい顔を顰めた。だが、何の強化もされていないただの蹴りだったので、なんとか受け止める事が出来た。しかし、問題はここからだ。
「ふん。貧弱なお前でもただの蹴りなら受け止められるか。だが・・・・・・次はこうはいかんぞ」
影人が懸念した通り、レイゼロールは足を引きそう言うと、自身の肉体を闇で強化した。すなわち、身体能力の『強化』と『加速』の力の2つだ。『硬化』と眼の強化は使わなかった。レイゼロールはこの後に零無と戦う気でいる。ならば、無駄な力はあまり使えない。
そして、そうでなくても、
「・・・・・・今のお前にはこれでも充分過ぎる」
レイゼロールがそう呟く。次の瞬間、レイゼロールの姿が消えた。いや、消えたと錯覚するほどの速度でレイゼロールが動いたのだ。影人が知覚出来ないスピードで。
「ふん」
「ぐっ!?」
更に次の瞬間、影人の背中に打撃が与えられた。骨が折れるような激痛ではないが、木製のバットで中々の強さで打たれたような痛みを影人は感じた。
「今のお前にはスプリガンとしての力はない。肉体はただの人間と変わらない。『終焉』が我に通じない以上、お前は生身で我に挑んでいるのと同じ。ゆえに・・・・・・お前は絶対に我には勝てない」
「がっ!?」
次に衝撃と痛みが襲ったのは腹部。レイゼロールが右拳で影人の腹部を穿ったのだ。
「ふっ・・・・・・!」
「っ〜!?」
レイゼロールは影人を殺さない程度に影人の全身を殴打した。影人は声にならぬ悲鳴を上げ、ただレイゼロールに殴られる。
(クソッ、痛え・・・・・・意識が飛びそうだ・・・・・・だけど、絶対に倒れねえ・・・・・・倒れる、もんかよ・・・・!)
影人は意識だけは手放さないように、倒れないように踏ん張った。倒れた瞬間、意識を失った瞬間に影人は終わりだ。
(許せよ、影人。傷は後で治してやるから・・・・・・)
一方、影人を殴っていたレイゼロールは内心でそう呟いた。正直に言えば、自分にとって大切な人間である影人を殴っているという事実は、レイゼロールからしてみれば耐え難い事だ。だが、今はこうするしかない。レイゼロールは心を殺して影人を殴っていた。
「遠距離攻撃組、やれ」
レイゼロールが1度影人から距離を取りそう言った。
「死なない程度にお仕置きよ!」
「1の炎。火傷くらいはしてもらうわよ。いつかの恨み!」
「氷の蔓よ!」
レイゼロールの言葉を合図とするように、遠距離攻撃の手段を有する者たちが攻撃を開始した。真夏は呪符を放ち、キベリアは炎の魔法を、明夜は氷の蔓を影人へと放った。それ以外の遠距離攻撃者たちも銃弾や弓矢などで影人へ攻撃を行なった。
「っ・・・・・・舐めるな・・・・・・!」
自分に向かって来るその攻撃に、朦朧としながらも、影人は『終焉』の闇を使ってそれらの攻撃を全て無効化した。レイゼロール以外ならば、この力は最強の剣にも盾にもなる。
「ふん、まだ抗うだけの気力はあるか。ならば・・・・・・」
レイゼロールが再び影人に接近してきた。すると、今度は影人の左頬に痛みが奔った。
「ぶっ・・・・・・!?」
「気力が尽きるまで削ってやる。安心しろ、殺しはしない」
レイゼロールが再び殴打の嵐を浴びせる。影人は意識を何とか手放さないようにまた必死に堪えた。
(っ、耐えろ・・・・・・耐えろ帰城影人・・・・・・レイゼロールを殺す方法は何とか思い付いた・・・・・・実行するのは次のタイミング・・・・・・だから、ここを耐えさえすれば・・・・・・)
影人が思いついたその方法は正直に言えば汚い、下衆な方法だ。だが、それでもやるしかない。本当に最悪なのは別の事なのだから。




