第1429話 鏖殺者、帰城影人(2)
「そうだ。今の俺は・・・・・・」
影人はそう呟くと、ボソリと何か言葉を呟いた。それは影人の中にある力を解放する言葉だった。
すると次の瞬間、影人の全身から濃密な闇が噴き出した。闇が噴き出すと同時に、影人の姿に変化が訪れた。まずは髪。髪の長さが伸び長髪になる。前髪の長さだけは少し短く変化し、普段は隠されている髪人の両目が露わになる。ただ、その目の色は光すら通さぬ漆黒へと変化していた。
そして、影人の右半身を包むように、右の肩口に黒と金のボロボロの布切れのような物が纏われていた。
その姿は、瞳の色こそ片方金ではないが、レイゼロールとの最終決戦の時に影人がなっていた、とある姿と同じものだった。
「『終焉』の継承者だ。何者をも死へと導くこの力で、俺は零無を殺す。邪魔をするなら、お前らもこの力を味わう事になるぜ。要はまあ・・・・・・殺すって事だ」
「「「「「っ!?」」」」」
冷め切った影人のその言葉。それを聞いた多くの者たちは、驚いたような、ショックを受けた顔を浮かべていた。
「言っとくが、俺は本気だ。こういう場面で嘘は言わねえ性格でな。だから、もう1度だけ言うぜ。これが最後通牒だ。どけ。俺の前から退かないなら、そいつは殺す。もしも、全員退かないって言うなら鏖殺だ」
それは本気の殺人宣言だった。何1つ混じり気のない脅しの言葉。その通りにしなければ、何の躊躇もなく影人は宣言した通りの事をするだろう。ここにいる者たちはその事を本能で理解させられた。
(これで退いてくれるならそれまでだ。出来ればそうなってほしい。だけど・・・・・・)
影人は内心でそう思いながらも、そうはならないという確信を抱いていた。
「退かない・・・・・・そんな事を言われても私は、私たちは絶対に退かないよ!」
「友達が間違いを犯そうとしてるなら、止めるのが本当の友達よ。はいそうですかって退けるなら、ここにはいないわ」
初めにそう言って来たのは陽華と明夜だった。2人は影人の脅しに屈せずに、正面から言葉を述べた。
「2人の言う通りだよ。僕たちは退かない。君のためにも」
「ふん。力があるからと言って調子に乗るな。お前と同じ力は我にもある事を忘れるな」
「少しお仕置きしてあげるわ影人。大丈夫、殺しはしないから」
「影くん。今の君は、ダメだよ」
光司、レイゼロール、シェルディア、ソニアもそんな言葉を言ってくる。そして、
「ははっ! いいねえ! お前とは本気の本気で戦いたかったんだ! よーし、てめえをまずはぶっ倒してやるよスプリガン!」
「先輩に殺すですって!? 舐めた口利いてんじゃないわよ帰城くん! 指導してやるわ!」
「お兄さん、その闇の中から今助けますからね」
「ふーむ、闇に堕ちた君を描くのもまた一興だ」
冥、真夏、ファレルナ、ロゼなどもそんな言葉を述べる。他の者たちも退く様子はない。やはりこうなったかと、影人はため息を吐いた。
「はあー・・・・・・やっぱりこうなるかよ。仕方ねえ。忠告はしたからな」
影人は全ての感情を排除したような無感情な目で全員を軽く見渡すと、その身から全てを終わらせる『終焉』の闇を爆発的に噴き出させた。
「かかって来い。神、吸血鬼、光導姫、守護者。全員まとめて殺してやる」
「「「「「っ!」」」」」
影人のその言葉を開戦の合図と受け取った者たちが臨戦態勢を取る。ソレイユやラルバ、シトュウを除いた戦える者たちは、それぞれ戦う者としての目になった。




