第1423話 彼の者は闇に堕つる(1)
「・・・・・・」
マンションを出た影人は、零無がいると感じる方角に向かって歩いた。
(・・・・・・否が応でも思い出すな。7年前の事を)
歩きながら、内心で影人はそんな事を思った。そう。7年前の自分も、覚悟を決めて1人で零無に会いに行った。まあ、零無はあの時の事を再現しているので、影人がそう思うのもある意味必然なのだが。
(だけど、あの時と明確に違うのは俺には力があるって事だ。あいつを封じる力じゃない。あいつを殺す力が。この力を・・・・・・)
影人は無意識に奥歯を噛み締めるとこう呟いた。
「お前に突き立ててやるぜ・・・・・・零無」
影人は、変わらずに目的地に向かって歩き続けた。ユラリユラリと、幽鬼の如く。
そんな影人は、目的地を半分ほど過ぎた時、とある事に気がついた。
(っ・・・・・・人がいない?)
今影人が歩いているのは、普通の住宅街ではあるが、この時間なら人の姿くらいは見える。そのはずなのに、影人はつい先ほどから自分以外の人の姿を見かけてはいなかった。
「こいつは・・・・・・」
不自然といえば不自然な状況。影人はこの状況に覚えがあった。スプリガン時代、何度も関わった事のある光景だったからだ。
(人払いの結界・・・・・・展開してるのは零無か? あいつが周囲の人間が巻き込まれないように結界を展開するなんて事は考えられないが・・・・・・)
だが、零無以外に結界を展開している人物は思い浮かばない。影人は少しの違和感をを覚えながらも、道を進み続けた。
そして、広場のような少し開けた場所に辿り着く。後もう少しで目的地といったその場所で、
「――あら奇遇ね。こんな素敵な春の夜に、あなたはたった1人でどこに行くつもりなのかしら。ねえ、影人」
影人の前に1人の少女が現れた。影人の名を呼んだその少女は、影人の隣人であるシェルディアだった。
「っ!? 嬢ちゃん・・・・何で君がここに・・・・・・」
シェルディアの姿を見た影人は驚愕し、どこか呆然としたようにそう言葉を漏らした。
「何で? 決まっているわ。あなたの力になるためよ。ねえ、影人。あなた、今から零無と戦いに行くんでしょう」
シェルディアが影人の漏らした言葉に対し、そう言葉を返す。そのついでに、影人が誰にも言っていない秘密を言い当てながら。
「何でそれを・・・・・・」
「勘よ。今日のあなたは、一見するといつもと変わらないあなただったけど、少しだけ何かが違った。何か昏い感情を無理矢理に隠しているような、そんな気がしたの。そして、あなたをいつもと違うものにしているものは何なのか。それは、今の状況を考えると零無の事以外にはあり得ないわ」
再び、影人の漏らした言葉に答えを返すシェルディア。シェルディアは言葉を続けた。
「だから、私は今日常にあなたの気配に気を張っていた。すると、少し前にあなたが1人で急に家を出た。その時、私は思ったわ。どういう背景からかは分からないけど、あなたが1人で零無と決着をつける気だって」
「それで先回りして人払いの結界を張ったのか・・・・・・流石の洞察力だな、嬢ちゃん」
ようやく驚きから立ち直った影人がそう言葉を述べる。影人の様子(しかも上手く隠していたのに)だけからその答えに辿り着き、こうして影人の前に現れるとは。それに、先ほどの疑問も解消された。人払いの結界を張ったのは、零無ではなくシェルディアだったのだ。
「影人、何があったの? きっかけ自体は昨日のシトュウの無力化なんでしょうけど・・・・・・」
シェルディアが心配そうな顔を浮かべ、影人にそう聞いた。シェルディアには具体的に何があって、影人が行動を決めたのかは分からなかったからだ。




