第142話 月下激戦(2)
(てめぇ、提督! せっかく俺がヘイト買ってやったのに、なに言ってくれてんだ!?)
睨み合う2人を冷静に観察するふりをしながら、影人は内心かなり焦っていた。
(クソッ・・・・・・ソレイユ聞こえるか? 聞こえてるなら返事をしてくれ)
いつもの念話の要領で心の中でソレイユに語りかける。基本的にというか、念話のコンタクトを取ってくるのはほぼほぼソレイユからなので、影人から念話で語りかけるということはほとんどない。
『ええ、聞こえています影人! 状況は提督の視界を共有させてもらっていたので理解出来ています! 正直、まずいことになりましたね・・・・・・・・! まさかフェリートが出てくるとは想定外です・・・・・・・!』
影人の無音の呼びかけにソレイユが応えた。それは良かったのだが、以前状況は難しい状態だ。影人は気持ち的に早口気味で念話を続けた。
(ああ、そりゃ俺もだ。で、ソレイユ。提督をこの前のレイゼロール戦の時みたいに転移させることは出来るか?)
『はい、それは出来ます。しかし、今からとなると3分ほど時間がいります! この前はあらかじめ転移の準備がありましたから出来ましたが、今回はゼロからなので!』
(上等だ。3分間なんとか俺がフェリートからさりげなく提督を守る。もう時間がない、話はまた後でな!)
『っ・・・・・・・・分かりました。では、私は今から転移の準備に入ります!』
ソレイユの言葉が終わる直前ほどで、提督とフェリートは交戦体勢に入った。
「闇よ! 喰らいつけ!」
提督がフェリートに向かって銃撃を放つ。フェリートは上空から急降下するように提督に迫る。影人は言葉を紡ぎ、右手をフェリートへと向けた。
するとフェリートの目の前――つまり空中だが――に、獣の顎のようなものが出現する。顎は自ら飛び込んでくるフェリートにその牙を下ろした。
「っ! 執事の技能が1つ、壊撃!」
フェリートが右手を突き出す。必然、右手が闇の顎の中に消えた。通常であれば、右手は食いちぎられているだろう。しかし、突如として不思議なことが起こった。
フェリートの顎に飲み込まれた右手を中心としたかのように、急に顎がひび割れ崩壊したのだ。
「まああなたも手を出してきますよね・・・・・・! スプリガン!」
「ふん・・・・・・・・面倒だが相手になってやるよ」
「貴様らはまとめて私が滅ぼしてやろう・・・・・!」
今ここにスプリガン、フェリート、提督の三つ巴の戦いが始まろうとしていた。
「――闇よ、その腕を現わせ」
影人の周囲からまるで亡者の腕のような黒い腕が複数出現した。この腕はレイゼロール戦でのことを参考にしたものだ。
黒い腕がフェリートと提督に襲いかかる。先ほどまでとは違い、今の影人は影ながら提督を守らねばならない。ソレイユの転移が始まるその時まで。
(気持ちフェリート多めだな。提督ならあれくらいなら捌けるだろ)
「ちっ・・・・・・・」
「面倒ですね」
案の定、提督は自分に向かってくる全ての腕を拳銃で全て撃ち抜いた。その体捌きもさることながら、2丁の拳銃の扱いも見事なものだ。
一方、フェリートは影人たちとほぼ同じ高さでまだ少し浮遊している。おそらく、立地的に着地は出来ないのだろう。何せ影人と提督の立っている道以外は全て水の張った田んぼだ。フェリートが汚れることを気にしなくとも、足場が水場なら動きはいくらか鈍くなる。
フェリートは両手に闇色のナイフを2本出現させると、影人の召喚した漆黒の腕を全て切り裂いた。そして言葉を一言呟くと、提督の方に視線を向ける。
「執事の技能が1つ、分身」
フェリートが提督の方に伸ばした左手から突如として、もう1人のフェリートが姿を現わした。あれはいつぞやのフェリートの分身だ。
「同じく壊撃」
分身体がそう呟き提督へと肉薄する。分身体は破壊の力を宿した右手を提督の顔面へと伸ばした。




