第1419話 昏い覚悟(1)
「ふぁ〜あ・・・・・・そろそろ寝るか」
月曜夜11時過ぎ。零無とシトュウが戦った同日の夜。自宅の自分の部屋で漫画を読んでいた影人は、大きなあくびをすると、目から溢れて来た涙を服の袖で拭いそう呟いた。
「よいしょっと」
漫画を机の上に置き、影人はベッドに潜り込んだ。春は寝やすい季節なので、本当にいい。出来れば春と秋だけで巡ってほしい。影人がどうでもいい事を考えながら、長い前髪の下の目を閉じようとした時だった。
何の前触れもなく、突如として周囲の光景が変化した。真夏の昼の神社の境内へと。
「っ・・・・・・!?」
その変化に、眠気が吹っ飛ぶ。影人はバッと体を起こし立ち上がると、この幻覚を通して影人に接触してきた人物、その姿を参道右側の大きな石の上に見つけ、前髪の下の両目でその人物を睨みつけた。
「やあやあ影人。約束通り、また語りかけに来たよ」
「零無・・・・・・!」
石の上に座りながらパタパタと自分に手を振って来るその人物――零無に、煮えたぎる負の感情を乗せながら、影人は零無の名を呟いた。
「はっ、またお話でもしにきやがったか? だったら話す事はないから、さっさとこの幻覚を解け。前は話してやったが、今日はもう話さねえぞ」
一瞬にして精神がドス黒い感情に支配された影人は、低い声でそう言った。
「おやおや、いいのかい? 今のお前は、もはやそう言える状況ではないというのに」
「っ・・・・・・? どういう事だ?」
だが、零無はニヤニヤとした顔で意味深にそう言った。零無の言葉を聞いた影人は、意味が分からないといった顔を浮かべた。
「端的に言おう。吾はつい先ほど、シトュウを無力化した。もはや、シトュウはこの地上世界で力を振るえない。つまりだ。吾はやろうと思えば、いつでもお前を迎えに行く事が出来るというわけさ」
「なっ・・・・・・」
零無が放った衝撃的な言葉。それを聞いた影人は、その顔を驚愕に染めた。
「っ、そんな嘘が・・・・・・!」
「嘘だと思うのなら、シトュウに聞いてみればいいさ。ただの死なないだけの普通の人間と変わらない者に成り下がったあいつを、吾は拘束も何もしていないからな」
「っ・・・・・・」
影人が反射的にそう言葉を漏らすと、零無が落ち着いた様子でそう言ってきた。零無のその言葉を聞いた影人は、つい口をつぐんでしまった。零無の言葉は真実なのだと思ったからだ。
「確かに、シトュウを排除してもお前の周囲には、吾を殺せる力を持ったレイゼロールや、それなりの力を持った吸血鬼もいる。だが、そんな奴らじゃ吾の相手にはなり得ないのさ。吾の相手になり得たのはただ1人、シトュウだけだった。そして、そのシトュウは吾が無力化した」
「・・・・・・つまり、てめえは何が言いたいんだよ」
どこか唸るように、影人がそう言葉を挟む。その言葉を受けた零無はニィと笑った。




