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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1418/2051

第1418話 邪悪なる愛(4)

「私は、何も手順は間違えてはいなかったはずです・・・・・・なのに、この状況は・・・・・・」

 シトュウがどこか呆然とした様子で、零無を見つめる。いったい、本当にいったい何が起きたというのだ。

(とにかく、また力を・・・・・・)

 シトュウは動揺をまだ抑え切れてはいなかったが、「時」の力を行使しようとした。だが、どういうわけか、いくら力を使おうとしても、力は現象化しなかったか。

「っ?」

「ああ、言い忘れてたが、無効化したのはお前の力そのものもだ。しかもだシトュウ、お前は吾が許可しない限り、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()。ははっ、つまりお前はただの無力な神になったってわけだ」

「なっ・・・・・・」

 零無が放ったその言葉。それを聞いたシトュウは、遂にその顔を驚愕に染めた。

「はははっ! いい顔だ。少しの間、我慢した甲斐があったなあ」

 その顔を見た零無が笑い声を上げる。シトュウは「時」の力以外にも他の神の力の使用を試みたが、やはりそれらの力を使う事は出来なかった。

「っ、神力の使用その行為自体を封じた・・・・・・? なぜ、どうして・・・・・・『空』の力を半分とはいえ持つ私は、力を行使出来るはずなのに・・・・・・あなたは、あなたはいったい何をしたのですか・・・・・・」

 シトュウがその顔をとある色――その色は絶望に似ていた――に染めながら、独り言のように零無にそう問いかけた。シトュウにそう聞かれた零無は、ニヤニヤとした顔を浮かべる。

「仕方ない、教えてやるか。今のお前は何にも出来ん死なないだけの者でしかないからな」

 零無はそう前置きすると、説明を始めた。

「まあ、お前も気づいていた通り、この戦いは罠だよ。シトュウ、唯一吾に対抗できるお前を無力化するためのな。そして実際、吾はお前を無力化する事が出来た。では、具体的に吾は何をしたのか。それは、お前の力の格を、『空』としての力の格、まあ言い換えれば、神としての格か。そいつを『無』の力で無効化したのさ。今のお前の力の格は、ただの真界の神。ただの真界の神は、神界の神と同じく地上では力を使えない。それが、今お前が力を使えない理由だよ」

「っ!?」

 零無の答えを聞いたシトュウが再び驚いたような顔になる。確かに、その理屈ならばシトュウは力を使えなくなる。だが、

「そんな事は・・・・・・そんな事は今のあなたには出来ないはずです。十全なる『空』としての力ならいざ知らず、今のあなたは私同様にその力は半分です。その力で、対等である私の力を無効化する事など、不可能です」

 シトュウは新たに自分の中に湧き上がってきた疑問を零無にぶつけた。そう。シトュウが「時」の力に制限を受けているように、零無も「無」の力に制限を受けているはずだ。その制限を受けている力で、実質的に対等のシトュウを無力化するなど、出来ないはずだ。

「まあ、普通はそうだよ。お前の言う通りだ。だから、吾は考えたよ。どうすれば、不可能を可能に出来るか。そして、その果てに、いくつかの厳しい制約を設ければ、何とかお前の力の格を無効化できるという結論に辿り着いた」

「厳しい制約・・・・・・?」

 鸚鵡返しにシトュウがそう呟く。そして、零無はその制約を口にした。

「まず1つ目が、『無』の力の使用の禁止。お前も気づいていたように、お前との戦い間、吾は『無』の力を使っていなかっただろう。それが1つ目の制約さ。後、この制約はお前の力を封じている間常に有効だ」

 零無が右の人差し指を立てる。

「2つ目は、力を奪わないという制約。本当なら、吾はお前から全ての力を取り戻したいが、それは出来ない。奪おうとした瞬間、お前に対する無効化は解除される」

 零無は次に右の中指を立てた。

「3つ目、これで最後だ。最後の制約は、状況の制限。吾が設定した状況は、『力を奪われる際、幽体を用いた方法ではなく、何か媒体を用いた方法による状況』というものだ。もちろん、お前が幽体を用いた方法を取っていたなら、吾は力を全て奪われていたぜ? そうすれば、お前の勝ちだったな。とまあ、以上の3つの制約を吾は自身に課す事で、力は発動し、お前の力を無力化する事に成功したというわけさ」

 最後に右の薬指を立て、零無はシトュウにそう説明した。

「っ、そんな・・・・・・」

 零無の罠は、まるで綱渡りかのような一か八かの賭けのようなものだった。罠とすら、策とすら言い切る事が出来ないような。

「私が幽体を使う方法を用いていれば、あなたは負けていたのですよ・・・・・・? なぜ、あなたはそんな博打のような真似をしてまで・・・・・・」

「そこまでしなければ、お前は無力化出来なかったからな。これでも、吾はお前を買ってる方なんだぜシトュウ。それにその質問は愚問だぜ。もちろん、全ては影人を手に入れるためさ」

 シトュウの呟きに零無はそう言った。零無の瞳には、影人に対する狂愛がやはり滲んでいた。

「で、結果は吾の勝ちだ。確かに、吾はお前を無力化している間『無』の力の使用は禁じられるが、それ以外の神力の使用は可能だ。何せ、吾の力は『空』の力だからな。『空』は地上世界でも力を振るう事の出来る。純粋な『空』としての神力があれば、レイゼロールやあの吸血鬼といった奴らも問題なく戦える。影人を奪う事も容易だろうぜ」

 零無はニヤリと笑みを浮かべながらそう言うと、もうシトュウからは興味が失せたように、シトュウに背を向けた。

「じゃあなシトュウ。『無』の力を禁じられた吾に、お前は殺せない。お前はもう力無き者だ。そんなお前を拘束し続けておくのも面倒だし、適当に消えろよ。吾はこれから最後の準備を整えないといけないからな」

 零無がシトュウに別れの言葉を口にする。だが、シトュウは最後にどうしても気になっていた疑問を零無に投げかけた。

「待ってください! あなたはなぜ、なぜ私が媒体を用いる方法を選択すると分かったのですか!?」

「ん? まあそれは、吾はお前の事を知ってるからな。お前なら、前回触れた事で吾に実質的に負けてる事を覚えてるだろうから、今度は逆の方法を取って来ると思っただけさ。ただの読みさ。まあ、結果はドンピシャだったがな」

「っ・・・・・・」

 零無のその答えを聞いたシトュウは、完敗したと思った。零無は読みと言ったが、それはシトュウの性格を正確に(ギャグではない)理解していないと、読めないある意味では高度な読みだったからだ。

「あばよ。やはり、最後に勝つのは愛だな」

 零無はそう言って、転移の力を使いこの場から消えた。シトュウは、零無が消えた後も、しばらくの間立ち尽くす事しか出来なかった。


 ――邪悪なる愛がいよいよ、そのあぎとを開き始めた。

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