第1417話 邪悪なる愛(3)
「・・・・・・確かに、今の私とあなたの力は互角。普通なら、こんなに早く決着がつく事はなかったでしょう。ですが、あなたはなぜか『無』の力を使えなかった。対して、私は『時』の力を扱えた。それが力の均衡を崩したのです。・・・・・・あなたの敗因は、私を必ず罠に掛けられると思っていたその傲慢さですよ、零無」
シトュウはボゥとした目を浮かべている零無にそう言うと、こう言葉を続けた。
「さて、では力を返してもらいましょうか。前回はあなたに触れたために痛い目を見ましたからね。今回は、あなたに直接は触れずに力を回収しましょう」
シトュウは自身の右腕を水平にすると、虚空に透明の槍を創造した。そして、それを右手で掴んだ。
基本的に力を回収、または奪う方法は単純だ。精神世界に根付いている力の根源。それに回収者、あるいは簒奪者が直接触れ、それを己がものとする。
ただ、精神世界に干渉するためには、それに干渉する媒体や、肉体の状態が必要になる。以前、零無がシトュウから力を奪った際には、零無は幽体だった。つまり純粋な精神体だ。これが、要は干渉するのに必要な肉体の状態だ。ゆえに、零無はシトュウの内部に触れ力を奪う事が出来た。
対して、シトュウは干渉する媒体を使っての力の回収を選択した(もちろん、シトュウも腕の一部を幽体化する事などは出来るが、前回触れるという行為によって痛い目を見たため、こちらを選択)。その媒体が、この透明の槍だ。この槍は、刺した対象の精神に干渉し、スポイトのように力を吸い上げる力を持っている。
「これで・・・・・・終わりです」
シトュウが両手で槍を持ちそれを逆さにする。そして、シトュウはそれを軽く振りかぶり、
「ふっ・・・・・・!」
シトュウはその槍を零無の胸部に突き立てた。そして、透明の槍が輝きを放ち、零無から力を吸い上げる。
だがその瞬間、零無とシトュウを中心に透明の方陣が現れた。その方陣が輝くと次の瞬間、虚空から透明の鎖が複数出現した。そして、その鎖はシトュウの内面にある何かを縛った。すると、亜空間はなぜか1人でに崩壊した。舞台が再び現実世界に戻る。
「っ・・・・・・!?」
シトュウは何が起こったのか分からなかった。しかし、何かが、致命的な何かを封じられた。シトュウはそう思った。そう思ったのと同時に、零無の胸に突き立てた槍も砂のように崩れ去った。
「――くくっ、戦いにおいて、生物が1番油断する時はどこだと思う? そいつは太古から変わらないぜ。そう。勝利を前にした時、敵に止めを刺す時さ。な? だから言っただろうシトュウ。お前には出来ないってな」
それと同時に、今まで喋る事すら出来なかった零無が至近距離からシトュウを見つめ、ハッキリとした口調でそう言った。目の焦点も合っている。つまり、シトュウの力が解除されたのだ。いったいどういう事だ。シトュウは後方に下がりながらそう思った。
「っ、なぜ・・・・・・」
「簡単さ。吾の罠にお前が掛かったからだ。その結果、お前の力は無効化された。ただ、それだけだよ」
声を漏らしたシトュウに、零無はそう言葉を返した。




