第141話 月下激戦(1)
「いやはや私は運がいい。レイゼロール様が日本で生み出した闇奴を条件に、あなたが現れないか確認していたところ、すぐにあなたと会うことが出来たのですから。――ねえ、スプリガン」
いったいどういった原理で浮いているのかは分からないが、フェリートは芝居がかった口調でそう言うと、スプリガンに視線を向けた。
「・・・・・・・・・お前の目的は俺か?」
影人は以前に1度自分が撃退した闇人にそう問いかけた。元々、フェリートは陽華と明夜を狙っていたはずだが、今の口調からすると狙いは変わったように思える。
「ええ、ええそうですとも。私の目的はあなたです。我が主人を――レイゼロール様に傷をつけたあなたを私は許しはしない」
激情を秘めた声音でそう語ったフェリートは、露骨にその目を細め影人を睨み付けてくる。
「・・・・・・・・別にお前に許しを求めちゃいない。レイゼロールが傷を負ったのは、あいつが弱かったからだ。まあ、それを言うなら俺に風穴を開けられたお前もそうだがな」
煽るように、不敵に言葉を紡ぐ。もちろん、レイゼロールが弱かったというのは大嘘だ。レイゼロールは間違いなく強かった。そしてそれはいま自分の前にいるフェリートも同様だ。
「・・・・・・私への言葉は許しましょう。私は1度あなたに負けた。敗者に口なしです。ですが、レイゼロール様への侮辱はいただけませんね・・・・・・・! あなたの罪がまた1つ増えましたよ・・・・・・!」
影人が予想したとおり、フェリートは煽りを真に受けたようだ。これで自分の方に完全にヘイトを向けることが出来た。
(ちっ! 完全に想定外だッ! まさかこいつが来るなんてな・・・・・・予定を変更して、なんとか提督をこの場から逃がさねえと・・・・・・・!)
そう。フェリートが現れたことによって、影人の仕事は提督をこの場から逃がすことに変わった。理由としては、このままでは戦いがフェリート、提督、スプリガンの三つ巴になること。つまりは乱戦だ。ソレイユ以外は知らないことだが、影人は一応、光導姫・守護者サイドなので、そうなればそれとなくフェリートから提督を守らねばならない。そして、乱戦ではそれが難しくなる。
「・・・・・・・・貴様たちだけで盛り上がってもらっては困るな。この場には私もいるのだぞ」
そしてここで初めて提督が口を開いた。提督は右の拳銃を影人に、左の拳銃をフェリートに向けている。そしてフェリートが現れたことによってか、提督を中心として渦巻いていたオーラのようなものは霧散していた。
「いえ、別にあなたを忘れていたわけではありませんよ。あなたは、確か光導姫『提督』といいましたかね。あなたほどの実力者を私は忘れませんよ」
「そうか、それはよかった。今から滅ぼされる者の名を知らないというのは、いくら悪しき者でも不憫だからな」
提督は宙に浮かぶフェリートにそう言った。聞き方によっては煽っているようにも聞こえるが、おそらくわざとではないだろう。
「言ってくれますね。スプリガンの前にあなたから消してあげましょうか? 提督」
「やれるものならな。浄化してやろう、闇人」
気がつけば、フェリートと提督は一触即発な状態と化していた。




