第1408話 歌姫、実家に来る(4)
「というか影人! あんた、ソニア・テレフレアと小学生の時から関わりがあったのなら言いなさいよ! あんたこの子がどれだけ有名人か分かってるの!?」
「しかも、初対面の時にソニア・テレフレアの歌に下手くそって・・・・・・やっぱりあなたは頭がおかしい」
次いで、日奈美と穂乃影が影人にそう言ってくる。2人の言葉を受けた影人は、どこか慌てたような様子でこう言った。
「し、仕方ないだろ。あん時の金髪は実際、マジで歌下手だったし・・・・・・それに、俺もあの金髪がソニア・テレフレアなんて分からなかったんだよ。分かったのは、こいつと再会した去年だったし・・・・・・」
「いや、だからってあんたね・・・・・・」
影人の言い訳を聞いた日奈美が呆れ切ったような顔になる。日奈美の隣の穂乃影も同じような顔だ。
「あはは、影くんらしいですよね。でも、影くんを責めないであげて下さい。彼はきっと、私をただの昔馴染みとして扱ってくれているだけですから。その気遣いも嬉しいんです」
影人を擁護するようにソニアが口を開く。ソニアのその言葉を気遣いと感じた日奈美と穂乃影が、申し訳なさそうな顔を浮かべる。しかし、そんなタイミングで、
「いや、単純に話すの面倒くさかっただけだぞ?」
全てをぶち壊すかのようにアホの前髪が、不思議そうにそう言った。瞬間、ソニアの笑顔がビシッと固まった。
「このバカ息子! ちょっとは空気読みなさい!」
「痛え!?」
日奈美が反射的に影人の頭を叩いた。まあ当然だ。日奈美に頭を叩かれたバカ前髪はそう声を漏らした。
「本当にごめんなさいね。ウチのバカ息子、ちょっとアレなところがあるのよ。昔はそうでもなかったんだけど・・・・・・はあー、こういうところだけ父親に似てきたのかしら」
「あ、あはは・・・・・・」
日奈美がソニアに謝罪の言葉を述べる。ソニアは流石に苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「お詫びと言ってはなんだけど、よかったら晩ご飯をどう? お口に合うかは分からないし、もちろん嫌なら全然断ってくれてもいいんだけど・・・・・・」
「え!?」
日奈美の言葉を聞いたソニアが驚いた顔を浮かべた。日奈美の言葉をソニア同様に聞いていた影人は、頭をさすりながらこう言葉を述べた。
「いや、それは迷惑だって母さん。金髪の奴も忙しいし、そもそも金髪も嫌――」
「是非! 是非お願いします! やったー! 影くんと影くんの家族とディナーだ! 嬉っれしい♪」
だが、影人が言葉を言い終わる前に、ソニアは嬉しそうにそう返事を返した。ソニアの言葉を聞いた影人は「はあ!?」と悲鳴に近い声を漏らした。
「本当? ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ。よーし、なら腕によりをかけて作らないとね」
「うわ・・・・・・私、ソニア・テレフレアと一緒にご飯食べちゃうんだ・・・・・・これ、夢・・・・?」
一方の日奈美は笑みを浮かべそう言って、穂乃影はいっそのこと不思議そうに首を傾げていた。
こうして、ソニアは帰城家と夕食を共にする事になったのだった。
「はあー、美味しかった♪ それにすっごく楽しかった♪」
午後7時半過ぎ。夜の住宅街を歩きながら、ソニアは心の底から満足したようにそう言った。
「けっ、俺は最悪だったがな。針の筵って気分だったぜ・・・・・・」
そんなソニアの感想に、隣を歩いていた影人はそう言葉を返した。




