第1406話 歌姫、実家に来る(2)
「・・・・・・ってな感じだ。まあ、想定外の事が起きてまた生き返ったわけだが、本当だったらお前らはずっと俺の事を忘れてたってわけだ。殴りたくなったら好きにしろよ」
家まで後もう少しといったところで、影人は説明を終える事が出来た。真面目なトーンで隣を歩くソニアに、影人はそう言った。
「・・・・・・・・・・・・そう、だったんだ」
影人から理由を説明されたソニアは、未だに衝撃を受け止めきれていないような声音でそう呟いた。そして、少しの間ソニアは黙り、数瞬してこう言葉を放った。
「・・・・・・でも、殴らない。確かに、君がした事は私たちからしたら許せない。だけど、影くんからしたら、それは最大限の君の優しさだったんだよね。それは分かるよ。だから、私は殴らないでいてあげる」
「・・・・・・そうか」
「でも、次こんな事したらその時は殴るから。君は本当、もっと人を頼らないとね。大事な事言わなすぎだし」
「安心しろ。流石にあんな事は2度としねえよ。人を頼れね・・・・・・よく言われるよ、それ」
「それだけ君が色んな意味で独りよがりって事だよ」
「別に独りよがりまでは行ってないと思うが・・・・・・まあ、分かったよ」
影人とソニアがそんな言葉を交わしていると、とあるマンションの前に着いた。影人やシェルディアなどが住んでいるマンションだ。いよいよ着いてしまった。
「ここが君が住んでるマンションだよね? よし、じゃあ早く入ろう! 楽しみだなー影くんのお家。どんな感じかなー♪」
「お前が何でそんな楽しそうなのかは、全く以て意味が分からんが、別に普通だ。期待し過ぎるなよ」
影人はそう言うと、マンションの中へと入った。ソニアも影人と共に中に入る。そして、階段を上がりまた少し歩く。
そして、
「・・・・・・着いたぞ」
2人は帰城家の家であるマンションの一室の前に辿り着いた。
「へえ、ここが君のお家かー。ねえ、早く早く。早く中入ろう!」
「だから何でそんなテンション高いんだよ・・・・・・ちょっと待て。いま鍵出すから」
子供のようにはしゃぐソニアを宥めつつ、影人は鞄から鍵を出した。そして、玄関のドアを解錠した。
「お、おじゃまします・・・・・・」
「何で次は緊張してるんだよ。ほら、さっさと入れ」
一瞬前のはしゃぎ様はどこへやら。急に緊張した様子に変わったソニアに、影人は疑問を抱きながらも家に入った。当然ソニアも。玄関のドアが閉まり、影人は鍵を掛けた。
「俺の部屋すぐそこだから、ドア開けて入ってろ。俺はちょっとトイレ行ってくるから」
「う、うん。分かったよ」
自分の部屋のドアを開けて、影人はソニアにそう告げた。影人にそう言われたソニアは素直に頷き部屋の中に入る。それを確認した影人は自分の部屋のドアを閉めると、軽く息を吐いた。
「ふぅ・・・・・・さて、今から1時間か。何とか穂乃影にバレないようにしないとな・・・・・・」
同年代の女子を部屋に連れ込んだなどという事が穂乃影や、まだ帰って来ていないが日奈美などにバレれば、間違いなくからかわれる。それに加えて、その連れ込んだ女子が、あのソニア・テレフレアとバレてしまっては、間違いなく2人は驚愕するだろう。それが原因で色々聞かれるのは本当に面倒なので、影人は家族にソニアを連れ込んだ事がバレないようにしようと考えていた。
「・・・・・・ん、おかえり」
「おう、ただいま」
影人がリビングに続く廊下を歩き始めると、リビングの方からそんな声が聞こえた。穂乃影だ。部屋着に着替えていた穂乃影は、イスに座りながらスマホをいじっていた。影人は穂乃影の声にそう言葉を返すと、トイレに入り用を足した。
「・・・・・・誰か連れて来たの? 何か違う声が聞こえた気がしたけど」
影人がトイレから出ると、穂乃影が突然そんな事を聞いて来た。穂乃影からそう聞かれた影人はドキリとしながらも、こう答えを返した。
「あ、ああ。ちょっと話が合った同じクラスの奴をな。1時間くらいだけ駄弁ろうって事になったんだ。そいつ、ちょっと恥ずかしがり屋だからさ。悪いけど、部屋にはしばらく来ないでくれ」
誰かを連れて来た事がバレているなら仕方がない。ここでそんな事はしていないと否定するのは、悪手になると思った影人は嘘の種類を変えた。
「ふーん・・・・・・あなたと話が合う人なんかいたんだ。絶滅危惧種だね」
「んなわけねえだろ・・・・・・とにかく、そういう事だから頼むぜ穂乃影」
「まあ、分かった」
穂乃影はそう言うと、視線を再びスマホへと移した。その様子を見た影人はホッと内心で息を吐いた。




