第1404話 戦いへの備え、歌姫と影(4)
「な、な・・・・・・何で避けるの!? 普通絶対避けない場面だよねここ!? 頭どうかしてるの!?」
「してねえよ。ただ、昨日の朝似たような感じで抱きつかれちまったから、2回もそうなるのはなんか癪だなって思っただけだ。俺に2度同じ事は通用しないんだよ」
立ち上がった少女が意味が分からないといった感じでそう叫ぶ。その叫びに対し、前髪野郎は全く以て理解できない理由を述べた。どう考えても頭がどうかしている奴のセリフである。
「いや意味が分からないよ!? 本当どうかと思う! いや、本当に!」
「ぎゃあぎゃあうるせえよ。もうちょっと落ち着けよ。なあ・・・・・・金髪」
影人が憤慨しているその少女――変装しているソニア・テレフレアのあだ名を呟く。影人にそう言われたソニアは、更に興奮したようにこう言葉を放った。
「落ち着けるわけないよ! 何日か前に急に君の事思い出して! 何で忘れてたかも分からなかったし、君にメールしても一向に返事なかったし! でも家分からなかったから直接行けもしなかったし! それで数日掛けて君の住んでる場所何とか調べ上げて、この道は絶対通るって事分かったからずっと待って、ようやく会えたのに! それでこれだよ!? 後、この場面で金髪呼びは流石にない!」
ソニアの魂の叫び。それを聞いた影人は、少し呆れた顔を浮かべた。
「おい、何サラッと怖い事言ってんだよお前・・・・・・はあー、悪かったって。俺も色々あったんだよ。というか、俺お前にもメール送ってなかったっけか?」
影人が一応謝罪の言葉を述べる。てっきり、影人は暁理と同じタイミングでソニアにもメールを送ったと思っていたのだが、ソニアの様子からするに影人の思い違いだったかもしれない。
「来てないよ! あと色々ってなに!? ちゃんと話してくれなきゃ納得しないから! 嘘なんかついたら、今度こそ本当に許さないからね!」
「わ、悪かったって。分かった。分かったからそう吠えるな。さっきから耳がキンキンしてんだよ・・・・・・」
伊達メガネの下の目で影人を睨みつけて来るソニアに、影人は耳を押さえた。至近距離から怒鳴られている、且つ女性の高い声もあって、耳が中々過酷な状態だ。
「・・・・・・ん。なら、信じるからね」
「ああ、信じろよ。お前は俺がスプリガンだった事を知ってる奴だ。そういう奴には、本当の理由を教えるよ」
ようやく落ち着いたのか、普段に近い声のトーンになったソニア。そんなソニアに、影人はそう言葉を返した。
「さて、ならどこで話すか。ちょっとだけ話長くなるからな。ああ、そうだ。金髪、そこらの適当な公園で――」
影人がそう言葉を紡ごうとすると、突然ソニアが一転、ニコニコとした顔を浮かべながらこんな言葉を割り込ませてきた。
「公園よりも近い所あるよね? ここから徒歩10分くらいのマンションが」
「・・・・・・・・・・・・え?」
ソニアの言葉を聞いた影人は、ポカンと驚いたような顔になった。それはそうだ。なぜなら、ソニアが言っているその場所は――
「ま、まさかお前・・・・・・俺の家に来る気か・・・・?」
影人が呆然としたようにそう言葉を述べる。影人の言葉を聞いたソニアは、変わらずにただニコニコと笑っているだけだった。




