第1403話 戦いへの備え、歌姫と影(3)
「帰城さん、お疲れ様でした。では、また明日!」
「おう。気をつけて帰れよ」
同日午後4時過ぎ。笑顔で自分に手を振って来る海公に、影人も軽く手を振り返しそう言った。海公は影人と同じ帰宅部で、たまたま帰る方向も同じだったので、途中まで一緒に歩いていたのだ。
「さて、帰ったら嬢ちゃんに会議の結果聞かないとな」
海公と別れた影人がそう呟く。今日の昼過ぎ、突然シトュウから零無に関する対策会議を開くから、前回の場所、喫茶店「しえら」に集合するよう一方的な念話を掛けられたのだが、影人はまだ午後の授業があり、留年してサボる事が難しくなったため、その会議には行けなかったのだ。そのため、会議に出席したであろう隣人であるシェルディアから、色々聞こうと影人は考えていた。
(結局、霧園はやっぱり善人だったし、ハブられなかったんだよな。俺的にはハブられた方が色々と都合が良かったが。まあ、中々上手くはいかねえか)
帰り道をのんびりと歩きながら、影人は今日の事を思い出した。影人が零無の事で色々と不機嫌になりながら今日登校すると、魅恋が影人に昨日は悪かったと謝罪してきたのだ。良かれと思って、少し強引に誘い過ぎたと。影人は魅恋の意図は理解していたし、全く気にもしていなかったので、その謝罪を受け入れた。そこで嫌味を言ってしまえば、それはただのクズになってしまうからだ。そういうクズは影人の目指すところではなかった。
まあ、ハブられた方が良かったと思っている時点で、この前髪は別の意味でクズなのだが。だが、その事は色々変に捻くれまくっている前髪は気にしていなかった。
「何だかんだ、ウチの高校は不快な奴とかはいねえんだよな・・・・・・」
イジメをするような人物も、周囲に暴力を振るような不良も、影人が知る限り風洛高校には存在しない。まあ、その代わり変人は多い気はするが(当然の事ながら、前髪野郎は自分の事は勘定には入れていない。どう考えても、ぶっちぎりで自分が変人筆頭であるはずなのに)。今のご時世、そんな高校は逆に珍しいかもしれないし、いい高校なのかもしれない。影人はぼんやりとそんな事を思った。
「センチュリー◯ラー、ミリオ◯カラー」
影人がそんな歌詞を呟きながら歩いていると、突然後方からこんな声が聞こえて来た。
「――影くん!」
「ん・・・・・・?」
特徴的なその呼び名。それは、とある人物しか呼ばない影人の愛称だ。影人が反射的に振り返ると、そこには帽子と眼鏡を着けた1人の少女の姿があった。特徴的なオレンジ色に近い金髪を風に揺らし、春らしい衣装に身を包んだその少女は、影人の顔を確認するや否や、影人に向かって駆けてきた。
そして、少女は影人に抱き着き――
「よっと」
「え!?」
――は出来なかった。なぜならば、影人が間一髪で少女の抱擁を躱したからだ。まさか避けられると思っていなかった少女は、そんな声を漏らし空を掴んだ。そして、勢いがあったために、転けてしまった。だが、幸い怪我はしていなかった。




