第1401話 戦いへの備え、歌姫と影(1)
「――では、いつか仕掛けてくる零無についての対策について話し合いましょうか」
4月18日木曜日、昼過ぎ。喫茶店「しえら」の裏庭にあるテーブル席の一角に腰掛けていたシトュウは、席に座る面々――ソレイユ、ラルバ、レイゼロール、シェルディアを見渡しながら、そう言った。
「はい、シトュウ様」
シトュウの言葉にソレイユが頷く。当然、ソレイユの隣のラルバも。ソレイユとラルバからすれば、シトュウは雲の上の存在。そのため、2人の顔にはどこかまだ緊張があった。
「ふん、さっさと始めろ」
「コラ、レール! 不敬でしょう!」
そんな2人とは対照的に、レイゼロールは急かすようにシトュウにそう言った。レイゼロールの言葉を聞いたソレイユは、諌めるようにそんな言葉を放つ。
「構いません。言葉遣いなど、別に気になりませんから。それよりも、帰城影人の姿が見えませんが。彼はいったいどうしたのです?」
「影人なら今頃学校よ。だから、今日はいないわ。別に、影人を抜きにしても話は進められるでしょう」
シトュウの疑問に、紅茶を飲んでいたシェルディアが答えた。一見すると、シェルディアの様子は普段と変わらない。だがしかし、その声音にはどこか素っ気なさのようなものが感じられた。その素っ気なさが、何を表しているのか。それは、影人を大切に思っている者ならば、きっと理解できるものだった。
「そうだ。今の影人はあくまで囮。今のあいつはスプリガンではない。力がないただの人間だ。対策云々には、どちらにせよ関われない」
シェルディアの言葉のニュアンスを理解したレイゼロールが、続くようにそう言った。そうだ。影人はこの話に関わらない。いや、関わらせない。今までずっと1人で戦って来た影人を、これ以上戦わせるわけにはいかない。シェルディアとレイゼロールは、心の奥底でそう考えていた。
「シェルディア、レール・・・・・・」
2人の真意に気づいたソレイユが、複雑な顔を浮かべる。そして、ソレイユは改まったように真剣な顔になると、シトュウにこう言った。
「シトュウ様。2人の言う通りです。影人の存在はこの対策会議になくても問題はありません。ですから、話し合いを続けましょう」
「・・・・・・分かりました。あなた達がそう言うのならば、そうしましょう」
シトュウはその言葉を受け頷いた。確かに、影人の存在の有無にかかわらず、話し合いを進める事は可能だからだ。
ちなみに、この会議が行われる事が決まったのはつい先ほどの事だった。真界の神という事で、時間やスケジュールの観念が希薄なシトュウが、力を使ってここにいる者たちと、影人の精神に呼びかけたのだ。基本的に時間に縛られない、ソレイユ、ラルバ、レイゼロール、シェルディアの4人はその精神的な呼びかけ(一方的な念話のようなもの)に応じ、ここに集った。そのため、シトュウはこの場に影人がいない事に疑問を抱いていたのだ。
そして、その肝心の影人はというと、シトュウの呼びかけには当然気づいていたのだが、先程シェルディアが言ったように、学校であったため、その呼びかけを無視せざるを得なかった。色々サボっていた事も原因で留年してしまったので、影人はサボタージュする事にハードルを感じていた。




