第1398話 相容れぬ問答(2)
「・・・・・・そうか。俺はお前と話したい事なんざ何もないがな。話はこれで終わりだ。とっとと失せろよ」
「つれないなぁ。でも、そういうところも好きだぜ」
影人の拒絶の言葉に零無は笑みを浮かべそう言葉を返す。ダメだ。やはり零無とは会話にならない。影人はその事に苛立ちと虚無感を覚えながら、大きく舌打ちをした
「ちっ! てめえに好意なんか向けられても、何にも嬉しくねえよ・・・・・・10分だ。それ以上は話さねえからな」
影人は負の感情で煮えたぎる自身の心を無理やり制御しながら、そう言葉を放った。どちらにせよ、影人にこの幻を解除する方法は分からない。結局のところ、幻を影人にかけている零無がこの幻を解かない限りは。ならば、非常に癪に障るが零無と話をするしかない。半ば諦めの果てに影人はその考えに至った。
「ふむ、随分と短いが今はそれで良しとしよう。どうせ、もう少しすればいくらでもお前と話す時間はあるのだし」
零無は軽く頷くと、急にパチパチと拍手をしてきた。
「まずは、改めて復活おめでとう影人。吾がお前を蘇らせた時は興奮して祝辞を送るのを忘れていたからな。それにしても、レゼルニウスの記憶に拠れば、お前は2度蘇ったようだね。ふふっ、2度も蘇りを果たした人間なんて、人類の中ではお前が初めてだろうぜ影人」
「っ、レゼルニウスの記憶に拠ればだと・・・・・・? お前レゼルニウスの奴に何かしたのか? お前が創造したあいつに」
無視できない言葉を聞いた影人が、零無にそう質問する。その言葉を聞いた零無は「ほう、その事を知っているのかい」と言い、少し意外そうな顔を浮かべた。
「なるほど、シトュウから聞いたのか。確かに、レゼルニウスとレイゼロールの兄妹は吾が創造したが、あの2柱を創ったのはただの暇つぶしだから、特段情はないよ。だからと言って、危害を加えたわけでもないが。レゼルニウスからは少々奴の記憶を見せてもらっただけさ。それ以外は何もしてないよ」
「冒涜者の薄情者が。お前の言葉は反吐が出るぜ。命を何だと思ってやがる」
零無の言葉を聞いた影人は、嫌悪感を隠す事なくそう言葉を吐き捨てた。影人も倫理観はかなり低い部類だが、零無にはそもそも倫理観は存在しないのだ。少なくとも、零無と関わりがある影人はそう思っていた。
「別に。命に意味を見出してはいないからね。まあ、お前は例外だが。それよりも、影人。吾を封じてから、お前は随分と面白い事をしていたみたいだね。スプリガン、だったか。お前が光の女神から神力を譲り受けた姿は」
「・・・・・・本当に、レゼルニウスの奴の記憶を見たみたいだな」
スプリガン。零無の口からその単語を聞いた影人は思わずそう言葉を漏らした。でなければ、封印されていた零無がその単語を知るはずもないからだ。
「ああ。レゼルニウスはレイゼロールの事が心配で、冥界から地上を覗いていた。そんな時、1人の謎の男がレイゼロールの前に現れた。それがスプリガン。黒衣に身を包んだ金眼の男。お前が光の女神の神力を使って変身した姿だ」
「・・・・・・」
零無の言葉に影人は何も言葉を発さなかった。零無の言葉は真実で、別に何も言い返す必要もないからだ。
「しかし分からないんだが、お前はなぜ変身した自分に『スプリガン』という名前を付けたんだい? それは宝を守る妖精の事だろう。その妖精の名を名付けたという意味が、吾には分からないんだよ」
「はっ・・・・・・絶対にお前にだけは教えてやらねえよ」
首を傾げる零無に、影人は今度は拒否の答えを返した。レゼルニウスが影人を見始めたのは、レイゼロールと初めて戦った時。そのため、レゼルニウスの影人の観察の記憶はそこからだろうが、そもそも、それ以前の記憶があったとしても、レゼルニウスもスプリガンの名前の意味は知りはしないだろう。スプリガンの名前の意味を、守るべき宝が何なのかを知っているのは影人と、恐らくは名前の意味に気づいているソレイユだけだ。




