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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1397/2051

第1397話 相容れぬ問答(1)

「まず、予め断っておくよ。今お前が見ている光景は幻だ。こうして話している吾にも実体はない。簡単に言えば、意識だけで語りかけているようなものだ。その証拠に日の高さも、壊れていたこの石も壊れていないだろう?」

 零無は笑みを浮かべながら、影人にそう説明してきた。その説明を聞いた影人は「・・・・・・ああ、そうかよ」と呟くと、低い声でこう言葉を続けた。

「気色の悪い事をしやがって。これじゃあ、お前と俺が繋がってるみたいじゃねえか」

「みたいじゃなくて、実際に繋がっているんだよ。吾は封印される前に、お前の中に極小さな自分の魂のカケラを滑り込ませた。染みや影とでも言うべきね。吾はその繋がりを使ってお前にこの幻を見せ語りかけているんだよ。ある程度力を取り戻せた結果だな」

 零無が影人の言葉を訂正する。その言葉を聞いた影人はハッと何かに気づいたような顔を浮かべた。

「そうか・・・・・・あの影は俺の記憶の残滓ってだけじゃなかったのか・・・・・・」

 影人の精神の奥底にあった禁域。その中には、影人が今見ている風景と、黒い影の姿の零無がいた。初めて影人が影の零無と会ったのは、イヴとの対話の時。2度目に影の零無と会ったのは、シェルディアとの戦いの時だ。

 影人は今の今まで、あの影が過去の記憶の一部だと思っていたが、あれは零無の魂のカケラだったようだ。影人は零無が化け物だから、記憶にもある程度自我のようなものがあると思っていたが、どうやらそのような理由からではなかったらしい。今思えば、いくら零無が化け物だからといって、記憶にもあれだけハッキリとした自我があるのはおかしいかったのだ。

 ちなみに、影人がかつて影に言った「影を残してまで、俺に固執するストーカー野郎」云々といった言葉は、影人の反応を見れば分かる事だが、零無の魂の事を知ってでの言葉ではない。非常に紛らわしい言葉ではあるが、あれは、あくまで比喩のようなものだった。

「ちっ、俺の中に少しでもお前の魂のカケラがあるって聞くと、死にたくなるほど気持ち悪くなってきたぜ。しかも、てめえの影のせいでイヴの奴も泣いちまっし、俺も不快になった。死んで詫びろよ」

「うん? イヴというのが誰かは分からないが、その口ぶりからするに、吾の魂のカケラとは会った事があるようだね。いったいどんな会話をしたんだい? 悪いが、繋がり自体はあるんだが、お前の中の吾の魂のカケラは、吾本体から独立してしまっているんだ。だから、カケラの記憶は吾にはないんだよ」

 影人の呪うような言葉などどこ吹く風といったように、零無はニコニコとした顔で影人にそう聞いて来た。一応、新たな事実を影人は知ったが、その程度で影人の態度が崩れる事は当然なかった。

「心の底から拒否するぜ。それよりも、わざわざ幻まで使って俺に何の用だ。いったい、お前は何を企んでる?」

 影人が警戒心を最大にしながら零無にそう問いかける。そう。零無本体ではなく、幻を使って自分に接触してきた理由。理由は色々と考える事は出来るが、その真意を正確に押し測る事は影人には出来なかった。

「別に単純極まりない理由だよ。お前と話がしたかった。ただそれだけさ。何せ、話をしようとお前に直接会いに行こうとすれば、この前のように、レイゼロールやあの吸血鬼、それにシトュウなどが邪魔をしてくるだろうし。だから、今は幻で我慢しているのさ」

 影人の問いかけに零無はそう答えた。いかにも零無らしい理由だ。そのため、影人は零無の言葉が嘘ではないような気がした。

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