第1393話 新たな生活3(1)
「それじゃ、帰りのホームルームはこれで終わりだ。解散ー」
教壇からやる気のなさそうな声で紫織がそう告げる。紫織から解散という言葉が放たれた瞬間、2年7組は放課後を迎えた。生徒たちがそれぞれ鞄や部活の道具を持ち、それぞれ席を立ち始める。
「ふぅ・・・・・・さて帰るか」
影人も鞄を持ち自分の席から立ち上がる。帰宅部の影人に放課後の予定は特にない。今日は昼に暁理や光司、陽華や明夜たちと話して疲れた。そのまま直帰しようと影人が考えていると、教室内に一際大きな声が響いた。
「イェーイ! やっと放課後! カラオケ行くべ!」
声の主は魅恋だった。魅恋は解放されたような顔で両手を上げている。周囲には、魅恋の友達だろう。女子生徒たちが複数集まっていた。恐らく、彼女たちとカラオケに行くのだろう。
(ギャルは本当にカラオケが好きだな。まあ、偏見だけど)
影人はそんな事を考えながら教室を出ようとした。すると、魅恋が影人に気付きこう声を掛けてきた。
「あ、影人! 影人も一緒にカラオケ来ない? ちっちゃいけど歓迎会って事で! どうどう?」
(チッ)
思わず内心で舌打ちをする影人。本当に面倒だから声を掛けないでほしいと思いながらも、影人は魅恋にこう言った。
「すみませんが、男子1人はちょっと・・・・・・」
「えー、関係なくね? よし分かった! なら海公っちも一緒に行こう! それならいいっしょ?」
「え!?」
帰り支度をしていた海公は、急に魅恋にそう言われたので、驚き戸惑ったような顔を浮かべた。
「ちょ、ちょっと霧園さん! 勝手に決めないでくださいよ!」
「いいじゃんいいじゃん。海公っち帰宅部だし。それにいっぱいいる方が盛り上がるし! ね、みんな?」
魅恋が周囲にいた女子生徒たちにそう聞いた。女子生徒たちは、「うんうん! 特に春野くんは大歓迎!」「私も私も!」「春野くんと距離を詰めるチャンス・・・・・・!」などと答えた。どうやら、海公は女子に人気があるようだ。まあ、あの容姿なので分からなくもないが。
「ていう事だし、一緒にオケろう! はい決まりー! 駅前のカラオケ屋にレッツゴー!」
「あ、ちょ・・・・・・」
勝手にそう決めた魅恋は女子生徒たちを伴って教室を出ようとした。海公は何かを言おうとしたが、結局勢いに流されたように口をつぐんだ。そして、トボトボと魅恋たちの後に着いて行こうとした。
「すみません霧園さん。やっぱり俺は遠慮させてもらいます」
だが、影人だけは立ち止まったまま、ハッキリと魅恋にそう言った。
「え、何で?」
影人の言葉が意外だったのか、魅恋は振り返り影人にそう聞いて来た。魅恋の周囲の女子生徒たちも、少し驚いたような顔を浮かべている。後は、海公も。
「単純に今日は帰ってゆっくりしたい気分なので。霧園さんが気遣いや善意の気持ちから俺に構って下さってる事は理解しています。ですが、俺にそういったものは不要です。俺は1人が好きなので。不愉快に思われたのなら謝罪します。では、そういう事で」
影人は軽く頭を下げると、魅恋たちの前を通って教室を出た。その歩みには何の躊躇いもなかった。魅恋たちは少し驚いたような顔で、しばらく言葉を発さなかった。
「凄い・・・・帰城さん、やっぱりあなたは・・・・・・」
そして、海公はポツリとそう呟いた。




