第1391話 新たな生活2(3)
「ははっ、生憎と僕を好きな人がいるとは思えないから、それは少し難しいと思うよ」
「お前本気で・・・・・・いや、本気で言ってるんだろうな・・・・・・」
笑う光司を見た影人は弁当を開きながら、いっそ哀れそうな声でそう呟いた。光司はこういった場面で嫌味を言う人物ではない。影人は、光司に好意を寄せている女子(或いは男子もか)に同情した。ちなみに、今日の影人の弁当は冷凍の唐揚げがメインである。具体的にはニ◯レイの。影人は「いただきます」と言って手を合わせた。
「それよりも暁理さんから聞いたよ帰城くん。学校側がその、君を留年させたって。これは由々しき事態だよ。君は不可抗力で学校に来る事が出来なかった。だと言うのに、留年処分だなんてあまりにも横暴だよ。大丈夫、安心してほしい帰城くん。僕がこの横暴に抗議するから。香乃宮グループの顧問弁護士に相談して、必要とあるなら裁判も――」
「待て待て待て待て! いきなり話が飛躍し過ぎだおい!?」
真面目な顔でそんな事を言った光司に、影人は箸で口に運ぼうとしていたご飯を落としそうになりながら、今日1番の声でそう突っ込んだ。
「? どうしたんだい帰城くん?」
「どうしたんだいじゃねえだろうがこのバカ! 何がどうやってそんな悲しい理由で裁判しなきゃならねえんだ! 必要ねえよ!」
不思議そうな顔を浮かべる光司に、影人は続けてそう叫ぶ。この男、普通に賢くて天然でもないのに、なぜここで不思議そうな顔を浮かべるのか。影人には全く以て分からなかった。
「うーん・・・・香乃宮くん何でか知らないけど、影人の事となるとちょっと変になるんだよな・・・・本当、何でだろ・・・・・・」
一方の暁理はアジフライを食べながら、そんな感想を漏らした。完璧超人の香乃宮光司。その唯一理解しがたい点がそこだった。
「はあー、何で昼飯どきに疲れなきゃならねえんだ・・・・・・とにかく、お前は何にも口出しするな。正直、俺もまだ完全に納得し切れてはいないが、これは俺の問題だ。抗議するもしないも、俺が決める事なんだよ。だから、もうこの問題には何も言うな。分かったな?」
「っ・・・・・・うん、分かった。君がそう言うなら。ごめん帰城くん。僕は君のためにと思ったんだけど・・・・・・余計なお世話だったみたいだ。謝罪するよ」
影人の言葉を受け取った光司が影人に謝罪した。光司にそう言われた影人は、「分かったならいい」と言って白飯を口にした。
「ねえ影人。クラスはどうなの? 後輩たちの中に君みたいな奴が紛れてて、みんな萎縮してない? 多分、明日くらいには訴訟されてると思うんだけど」
「何で存在してるだけで訴えられなきゃいけねえんだよ・・・・・・別に普通だよ。面倒くさい絡んでくる奴はいるが・・・・・・後はまあ、隣の奴以外には留年してるってまだバレてないし」
「え、隣の子にはバレてるんだ。それは気の毒だよね、隣の子が。というか、君に絡んでくるって、随分と命知らずの子がいたもんだね」
「俺への誹謗中傷が止まらねえなオイ。別に命知らずとかじゃなくて、単に物珍しさだろ。そいつギャルだし」
「ギャル!?」
「へえ、その子は見る目があるね」
暁理がなぜか驚き、光司もうんうんとなぜか頷く。そして、暁理はそのまま影人の制服の襟を掴み焦ったような顔でこう言った。
「おい影人! まさか後輩のギャルに絡まれてドキドキなんてしてないよね!? もしかして俺の事好きなんじゃね? とか思ってないよね!? 言っとくけどそれ勘違いだからな! 相手は君の事何とも思ってないんだからな!」
「は、はあ? お、お前いきなり何言ってるんだよ?」
急に暁理にそう言われた影人は、全く意味が分からないといった感じでそう言った。本当に暁理の言葉は影人には理解出来なかった。




