第1390話 新たな生活2(2)
「えー、そうなん? なら仕方ないか。でも、ウチ影人がタメ語使えるようになるまで待ってるぜ〜!」
「はは・・・・・・」
ギャル特有の明るさと距離感に、前髪野郎は苦笑いを浮かべるしかなかった。すると、今までずっと魅恋に掴まれていた海公が恥ずかしそうに抗議の声を上げた。
「き、霧園さん! その、きょ、距離が近いから離れてもらってもいいかな・・・・・・!?」
「え、そう? ごめんね海公っち。ていうか、海公っちやっぱり可愛い〜。女子よりも女子って感じだよねー」
「いや、だから・・・・・・! というか、僕は男です! か、可愛いくなんてありません!」
プクッと海公が怒ったのか頬を膨らませた。その仕草が既に可愛いのだが、恐らく本人は気づいていないのだろう。
「いや、もう可愛すぎだから!」
「わ、わっ!?」
そして案の定、海公はそう言われて魅恋に抱きつかれた。魅恋に抱きつかれた海公は、女子に抱きつかれたからだろう。カァと急速に顔を赤らめた。思春期の男子なら、そんな反応もするだろうなと、その光景を見ていた影人は他人事のように考えた。
「あ、そうだ! せっかくだから、3人でご飯食べない? 影人にこのクラスの事教えたげるよ!」
「ちょ、霧園さん勝手に・・・・・・!? で、でも帰城さんとご飯・・・・・・」
すると突然、魅恋がそんな提案をしてきた。明らかに今決めた感じだ。その証拠に、海公も戸惑ったような顔を浮かべた。なぜか後半はまんざらでもないみたいな顔になったのは謎ではあるが。
「すみません。お気持ちはありがたいんですが、先約がありまして。という事で、失礼させていただきます」
影人はハッキリと魅恋の提案を断った。嘘ではなく、光司と暁理との約束があるからだ。まあ、なかったとしても、前髪野郎の事なので適当に嘘をついて断っていただろうが。基本的に前髪野郎は見た目こそ陰気なキャラだが、内面は人外なので、嫌なものは嘘をついてでも、オドオドせずにハッキリと断わるのである。
「あ、そうなん? なら仕方ないねー。じゃ、海公っち。一緒にご飯食べようぜ〜。ウチ、実は今日弁当忘れちゃってさー」
「それ絶対に僕からたかる気ですよね!?」
悲鳴を上げる海公を無視しながら、鞄から弁当を取り出した影人は、スタスタと教室から出た。そして、大きなため息を吐く。
「はあー・・・・・・ったく、善意からの行動なんだろうが、やっぱりああいう人種は苦手だぜ。前のクラスの奴らの方が楽だったな。あいつら、基本俺に話しかけてこなかったし・・・・・・」
1階にある学食フロアに向かいながら、影人はそう呟いた。頭に浮かぶのは魅恋の事だ。物珍しさと、恐らくは陽キャ特有の善意から影人に絡んで来るのだろうが、魅恋の行為ははっきり言って孤独が好きな影人からしてみれば迷惑であった。
「さて、暁理と香乃宮の奴はっと・・・・・・」
そんな事を考えている内に学食フロアに辿り着いた影人は、生徒たちで賑わっているフロアを見渡した。影人がここに来るのは少し遅かったので、あの2人は既に来ているはずだ。影人はそう考えていた。
「おーい、影人!」
「帰城くん!」
影人が周囲を見渡していると、手を振りながら影人の名を呼ぶ者たちがいた。暁理と光司だ。2人は既に席に着いており、昼食を載せたトレーを机に置いていた。
「よう、待たせたな。暁理、お前今日は学食なんだな」
「まあね。今日はそういう気分だったし」
2人が座っている場所まで移動した影人が、暁理の隣の席に座る。どうやら、暁理が席を確保してくれていたようだ。暁理のトレーにはアジフライの定食が載せられていた。
「ご機嫌よう帰城くん。朝ぶりだね。ずっとこの時間を楽しみにしていたよ」
「そういうセリフを俺に言うな。てめえを好きな奴に言ってやれよ香乃宮」
暁理の対面に座っていた光司が爽やか且つキラキラとした笑みを浮かべる。余りにもなイケメンスマイルを向けられた影人は、少しうんざりとした顔でそう言った。ちなみに、光司のトレーには焼き魚定食が載せられていた。




