第1389話 新たな生活2(1)
「――はい。では今日の授業はここまでです。次は小テストをするので、そのつもりで」
中年の国語教師がチョークを置きそう告げたと同時に、昼休みを知らせるチャイムの音が流れた。瞬間、教室の空気が弛緩する。教師が教室を去った瞬間、2年7組の生徒たちはワイワイガヤガヤと騒ぎ始めた。
「やっと昼か・・・・・・」
軽く息を吐きながらそう呟いた影人は、シャープペンシルを筆箱に仕舞い、教科書とノートを机の中に入れると軽く伸びをした。
「お疲れ様です帰城さん。久しぶりの授業はどうでした?」
「あー、相変わらず眠たいってのが偽らざる感想だな。別につまらないって訳じゃないが、春の陽気を1番に感じるこの席が悪い。っていうか、さん付けはいらないって言っただろ。俺も砕けた口調にしたんだから、春野もしてくれ。じゃなきゃ、不公平だろ?」
隣の席の海公が、男とは思えない可愛らしい笑みを浮かべ、影人にそう聞いて来た。影人は海公にそう答えを返しながらも、そう指摘した。
「そ、それは確かにそうなんですけど・・・・・・その僕は、実は知ってるんです。帰城さんが・・・・・・その、留年なさってるって事を・・・・・・」
「っ!? あー・・・・・・マジか」
影人にだけ聞こえるくらいの小さな声で、海公は言いにくそうな顔でそう言った。海公にそう言われた影人は一瞬驚いたような顔になったが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「そうか。それを知ってるなら、確かに口調は砕けにくいか。ていうか、春野は俺が最初から留年生だって知ってたのか? いずれ誰かにバレるとは思ってたが、まさか初日からバレるとは思ってなかったぜ。あ、それか榊原先生が口滑らせてみんな知ってるってオチか?」
「いえ、多分僕以外に知ってる人はこのクラスにはいないと思います。榊原先生もその事はみんなには言ってません。そして、最初から知っていたのかという質問についてはイエスです」
納得したような表情でそう言った影人に、海公はふるふると首を横に振り、そう答えた。どうでもいいが、いちいち仕草が可愛らしい。
「へえ、まああの人も流石にそこまで抜けちゃいないか・・・・・・しかし、そうなると気になるのは、何で春野が俺の事を留年生だって最初から知ってたかだよな。まあ理由は色々と考えようと思えば考えられるが・・・・・・何で知ってたんだ?」
「あ、それは・・・・・・その・・・・・・実は、僕帰城さんにずっと憧れて――!」
不思議そうな顔を浮かべる影人に、なぜか海公は少し恥ずかしそうな顔になった。だが、海公が意を決したように言葉を紡ごうとした時、海公の後ろから魅恋が乱入してきた。
「ねえねえ、海公っちと何話してるの?」
「う、うわっ!? き、霧園さん!?」
魅恋が海公の肩を掴みながら、ズイッと顔を出してきた。急に魅恋が乱入してきた事に、海公は心底驚いたような顔を浮かべた。
「別に。ただの世間話ですよ。他愛のないね」
急に乱入してきた魅恋に、影人は大して驚いた様子もなく、そう言葉を述べる。こういった明るい人種のやる事に、いちいち驚いていては世話がないからだ。
「えー本当? ていうか、そんな他人行儀な言葉遣いおかしくない? もっと砕けてオケ!」
ビッと右の親指を立てながらは魅恋はそう言った。だがしかし、影人は首を横に振る。
「いえ、今はこれで。俺は少し人見知りなので、急に砕けた口調になるのは難しいんです。すみません」
「え・・・・・・!?」
さっきの今でこの発言である。平然と嘘をつく前髪野郎。やはり人として終わっている。いや、というか人外だった。人外ならば、まあ仕方がないだろうか。その証拠に海公は驚いた顔になっていた。




