第1386話 新たな生活1(3)
「ねえ影人。君、本当の本当に宇宙人に攫われてたの? 正直、僕未だに全く信じられないんだけど」
「ああ、マジだ。嘘にしか聞こえない気持ちは分かるがな。俺もこういった場面で嘘はつけねえよ」
ジトーとした目を向けてくる暁理に、影人は努めて冷静に嘘をついた。この嘘を言うのも、もはや慣れたものだ。
「そう・・・・・・だよね。流石の君もこういった場面では嘘をつかない・・・・・・うん、分かった。なら、僕は君の言葉を信じるよ。例えそれが、どれだけ荒唐無稽な話でも」
「・・・・・・そうか。ありがとよ」
最終的に暁理も影人の嘘を信じてくれた。自分を信じる目を向けてくる暁理に、流石の前髪も多少罪悪感を覚えたが、本当の事など暁理に言えるはずがない。影人は表情を変えずにそう言った。
「ね、ねえ影人。今日はせっかく久しぶりに会ったんだし、お昼ご飯でも一緒に――」
暁理が少し頬を赤らめて影人にそう言おうとした時だった。突然、暁理の言葉を遮るように、後方からこんな声が聞こえて来た。
「帰城くん!」
その声の主は、彼にしては珍しく、焦ったような、嬉しそうな、感動したような顔を浮かべながら影人たちの方に全力疾走してきた。
「っ、君は・・・・・・」
「何もそんなに全力疾走して来なくてもいいだろ・・・・・・香乃宮」
暁理と影人がそれぞれそんな言葉を漏らす。影人に名前を呼ばれたその男、風洛高校が誇るスーパーイケメンにして元守護者の香乃宮光司は、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべこう言った。
「ご、ごめん。帰城くんの姿を見たら、気がついたら・・・・・・」
「気がついたらって・・・・・・犬かよお前は」
光司の言葉を聞いた影人が思わず呆れた顔になる。全く、本当にこの男の事は未だによく分からない。
「それよりも・・・・・・本当に大変だったね、帰城くん。大体の事情は朝宮さんと月下さんから聞いてるよ。その、本当に・・・・・・」
「・・・・・・」
光司が気まずそうな、悲しそうな顔を浮かべる。光司の言葉を聞いた影人はただ黙っていただけだったが、同じく光司の言葉を聞いていた暁理は、「え!?」と驚いたような声を上げる。
「香乃宮くんも影人が宇宙人に攫われてたって事聞いたの!? しかも、朝宮さんと月下さんから・・・・・・? ど、どういう事だよ影人! 君、あの2人とは全く接点なかったはずだろ!?」
「宇宙人に攫われていた・・・・・・?」
「あー・・・・・・」
暁理が影人にそう聞いて来た。暁理の言葉を聞いた光司は不思議そうな顔を浮かべ、影人は面倒くさそうに声を漏らした。
「土曜日に学校に来た時にたまたま会ってな。その時に話した。朝宮と月下とは、文化祭期間の時にたまたま話す機会があっただけだ。香乃宮を介してな」
影人は暁理に適当な説明をしながら、チラリと前髪の下の目を光司に向けた。
先ほど光司の漏らした言葉と、陽華と明夜から話を聞いたという言葉。それらから、光司は影人が消えていた真実の一端(陽華と明夜にも一部の事はまだ伏せている)を知っていると理解した影人は、宇宙人云々が表向きの説明だという事を光司に伝えたかった。




