第1385話 新たな生活1(2)
「・・・・・・」
それから、しばらく風洛高校に向かう生徒たちに紛れて影人は歩いていた。こうしていれば、誰も自分が留年生などとは気づかないだろうな、と漠然とそんな事を考えていると、
「――影人ッ!」
後方から影人の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声の主は急いで影人の元まで駆けてくると、影人の隣に立ち止まった。
「よう、久しぶりだな・・・・・・暁理」
影人は自分の隣に現れたその人物――影人の数少ない友人である、早川暁理にそう言った。
「はあ、はあ・・・・・・久しぶりじゃないよ! 君、本当、本当に何があったんだよ!?」
息を整えた暁理は、影人にそう言った。暁理の顔色には久しぶりに影人にあった嬉しさと、多少の怒り、そして多大なる疑問の色があった。
「メールで言っただろ。宇宙人に攫われてたんだよ。あと、そのせいでついでに留年した」
「いや、それが意味分からないから聞いてるんだけど!? というか、後半部分は今初めて聞いたぞおい!?」
影人はいつも通りの感じで暁理にそう言ったが、暁理は悲鳴に近い叫び声を上げた。
「まあ、流石に恥ずかしかったからな。ギリギリまで言わなかった。というか、朝っぱらからそんなに大声上げるなよ。みんな見てるぞ」
影人は一種のパニック状態に陥っている暁理に、冷静にそう指摘した。影人の言葉通り、周囲にいた風洛高校へ向かう生徒たちは何事だ、といった感じで暁理の方を見つめていた。
「っ・・・・・・そ、それはそうだけど・・・・・・」
影人に指摘された暁理はハッとした顔になり、バツが悪そうな顔を浮かべた。だが、やはりまだまだ影人には言いたい事があるのだろう。暁理は真面目な顔を浮かべると、こう言葉を続けてきた。
「でも、僕にとってはそんな冷静でいられる事じゃないんだよ・・・・・・! 君の事をなぜか忘れていて、君を思い出したあの時から、僕は、僕は・・・・・・!」
そして、暁理はたまらずにその目に涙を浮かべると、バッと影人に抱きついてきた。
「良かった・・・・・・! また君に会えて、本当に良かった・・・・・・!」
「お、おい暁理・・・・・・!?」
暁理に抱きつかれた影人は、焦ったような顔を浮かべた。暁理はギュッと影人を強く抱きしめたまま、影人の暖かさを感じていた。
「・・・・・・はあー。おい、暁理。悪友としてのお前の気持ちは嬉しいが、そろそろ離れろ。暑苦しいから」
やがて、暁理に抱きつかれている状況が面倒くさくなった影人は、暁理の首根っこを掴むとそこを引っ張って自分から無理やりに引き剥がした。流石前髪留年野郎である。やる事が人ではない。影人に無理やり引き剥がされた暁理は、「ぐえッ!」と軽い呻き声を上げた。
「な、なな何するんだよこのバカ前髪! 普通今の状況で首根っこ掴んで引き離すかい!? 君には情緒はないのか!?」
「うるせえ。往来でいきなり抱きつかれる俺の身にもなってみろ。というか、マジで遅刻するぞ。留年して登校初日から遅刻とかシャレにならんから、さっさと歩かなきゃならないんだよ」
信じられないといった顔でそう言って来た暁理に、影人はそう言葉を返した。そして、そそくさと再び学校に向けて歩き始める。
「おい人外! 僕を置いて行くな!」
「誰が人外だおい。ナチュラルに人の領域から俺を外してるんじゃねえよ」
怒った様子で影人の隣を歩き始めた暁理。暁理の怒りはもっともなのだが、暁理が今呼んだようにこの前髪は一種の人外である。人外は心外だと言わんばかりにそう言葉を述べた。




