第1381話 デートと女子高生たちは賑やかに(3)
「・・・・・・色々と説教をされたり、制約を結ばされたりもしたが、我が今ここにいる事が全てだ。闇人たちも2度と無闇に力を使わない限り、その生存を許された」
「そう・・・・・・それなら、よかった」
レイゼロールの言葉を聞いた明夜が、そんな感想を漏らす。以前「しえら」でシェルディアに聞いた時に、大体の事は分かっていたが、レイゼロールの口から直接そう聞いたので、明夜は安心したのだった。陽華も、明夜と同じような顔になっている。
「・・・・・・ふん、変わった奴らだ。命を懸けて戦ったかつての敵にそう言うか。本当に、余程のお人好しらしいな、貴様らは」
「別にそんな事は・・・・・・」
レイゼロールの呟いた言葉に、陽華がそう言葉を返した。だが、レイゼロールは「いいや、やはりお前たちはお人好しだ」と言って、こう言葉を続けた。
「約2000年ばかりか、それ程の長い時間、我は光導姫や守護者たちと戦い続けてきた。むろん、時期に誤差はあるが闇人たちもな。その間に、我たちが光導姫や守護者を殺さなかったと思うか? 答えは否だ。我や闇人たちは、もう数え切れないほどに人間の命を奪って来た。敵、だからな。ゆえに、後悔や懺悔の気持ちはない。我らは自分が殺して来た者たちに、何の情も抱かない」
「「っ・・・・・・」」
その言葉を聞いた陽華と明夜は、ショックを受けたような顔になった。そう。本来、かつての光サイドと闇サイドの間には決定的な溝があるのだ。埋められない程の深い溝が。レイゼロールは、改めて2人にその溝を突きつけた。
「で、でも・・・・・・」
「それでも、それでも私たちは・・・・・・」
陽華と明夜が何かを訴えかけるような目をレイゼロールに向ける。すると、ちょうどそんな時、今まで黙ってその話を聞いていた影人が、少し呆れたようにこう言葉を挟んできた。
「はあー、お前らさっきから聞いてりゃ、何をそんな真面目な話してんだよ。いやまあ、お前らの間柄、シリアスな話になっちまうのは分からんでもないがよ。だけど、今は遊んでんだぜ? 真面目で難しくて、暗い話は今はいいだろ。多少取り繕ってでも楽しんで遊べよ」
「「っ・・・・・・!?」」
影人の言葉を聞いた陽華と明夜はハッとした顔を浮かべた。
「・・・・・・ふん、我はただ・・・・・・」
「分かってるよ。朝宮と月下は優しいって事をお前は言いたかっただけだろ? だけど、お前の言い方は難しいんだよ。ずっと人とまともに話してなかったからだろうが、お前コミニケーション能力かなり低いぜ?」
「なっ・・・・・・!? わ、我の伝達能力が低いだと・・・・・・! 我を侮辱するな!」
「いや、侮辱っていうよりかは普通に事実を伝えただけなんだが・・・・・・」
自分にギロリとした目を向けて来たレイゼロールに、影人は困ったような顔を浮かべた。どうやら、自覚はないらしい。影人は陽華と明夜の方を向くと、こう言葉を述べた。
「悪いな朝宮、月下。こいつにあんまり悪意はないんだ。ただまあ、こいつが言ったみたいに、そういう事実があるのは確かだ。その辺りは、消せない事だし、消しちゃならない事だろう。だけど、まあ・・・・・・」
影人は軽く頭を掻くと、少し真剣な顔を浮かべた。
「それでも、歩み寄る事は、歩み寄ろうとする事は出来る。少なくとも、人間はそうしてきたわけだしな。お前らは、それを言おうとしてたんだろ? 朝宮、月下」
「え、う、うん・・・・・・」
「た、確かに私たちは、今帰城くんが言ったような事を言おうとしたけど・・・・・・よく分かったわね」
影人にそう振られた陽華と明夜は驚いたように、そう言葉を漏らした。明夜にそう言われた影人は、「まあな」と呟いた。
「善人のお前らが言いそうな事くらいは分かる。それに、俺はずっとお前らを影から見て来たしな。って、何かこの発言ストーカーみたいで嫌だな・・・・」
自分で自分の言葉にショックを受けつつも、影人はこう言葉を続けた。
「その歩み寄りのためにも、俺たちは今日一緒に遊ぶんだよ。最初は多少取り繕ってもでいいから、姿勢を示すんだ。分かったか、レイゼロール?」
「・・・・・・ふん、勝手な事を。・・・・・・馴れ合う事はせんぞ」
「ああ、別にそれでいい。よし、なら今度こそしけた話は終わりだ。お前らもいいな?」
レイゼロールの言葉に頷いた影人が、陽華と明夜に改めて確認を取る。影人にそう言われた2人は、明るい顔で頷いた。
「うん! ありがとう、帰城くん!」
「重たい空気を整理してくれてありがとう。帰城くん気遣いできるのね、意外だったわ」
「しばくぞ月下てめえ。一言余計だ。ったく」
影人は軽く息を吐くと、再び歩き始めた。陽華、明夜、レイゼロールも影人に続く。その間には、もはや先ほどまでの重たい空気は存在していなかった。




