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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
138/2051

第138話 あえての結果(2)

『影人。いま提督を闇奴の元へと送りました。あなたの提案した方法で提督の真意を確かめます。急ですみませんが、支度をしてください』

 その時は影人がソレイユと話し合った日から3日ほどしてやって来た。つまり影人がスプリガンとして『提督』の前に現れるという時だ。

「・・・・・・・・・了解だ」

 自分の部屋で静かに本を読んでいた影人は、本に栞を挟むと鞄の中に入れてあったペンデュラムを取り出し、私服のポケットへと突っ込んだ。

「いいぜ、送ってくれ」

『分かりました。・・・・・・影人、一応言わせていただきます。ご武運を』

「おうよ」

 自分の部屋に鍵を掛けたことを確認し、影人の体は次第に光に包まれていった。







「どこだここ・・・・・・・・・・? 東京か?」

 まず影人の視界に映ったのは、辺り一面の田園だった。夜のため、月の光が水の張り始めた田んぼに優しく降り注いでいる。

「まあ、どうでもいいな・・・・・・」

 場所はどうでもいい。今日の自分の目的に場所は関係ないのだから。それよりもと、影人はこの静かな世界に響く物騒な音の方に意識を向けた。

 バン、バンとおそらく何かの発射音らしきものが聞こえてくる。自分からそんなに遠くない場所が、その音の音源だ。

 見ずともその音が聞こえてくる場所に、目的の光導姫がいることはすぐにわかった。

(物騒な音出しやがる・・・・・・・・)

「――変身チェンジ

 自身も()()()を出したから、光導姫『提督』の得物がなんなのかを悟った影人は、そんなことを思いながらその言葉を口にした。

 ペンデュラムの黒い宝石が、真っ黒な輝きを放つ。そして影人の服装が変わると、そこにはスプリガンと呼ばれる人物がいた。

「・・・・・・・・・・行くか」

 スプリガンは闇奴と光導姫『提督』が戦っているであろう場所へと向かった。





「――終わりだ(カニェッツ)

 提督の浄化の力を宿した銃弾が、虎のような闇奴の体を貫く。闇奴は悲鳴を上げると、地に伏せた。そして光が闇奴を包むと、闇奴の姿は年若い少女へと姿を変えた。

 提督が少女を介抱しようと歩み寄る。だが、突如として自分の後ろに何者かの気配が生じたことを提督は察知した。

「っ・・・・・・・!」

 光導姫ランキング3位『提督』からしてみれば、それは不覚以外のなにものでもなかった。命の危険がある光導姫からすれば、そのような油断が命を失うことに繋がる。提督――アイティレ・フィルガラルガはそのことをよく知っていた。

 そしてアイティレのその第六感と呼べる感覚は正常なものだった。

 振り返ると、一本道の――自分からおよそ15メートルほどの距離だろうか――ど真ん中に闇と同化するような黒い外套を纏った人物がいた。

 その人物は猫のように闇に映える金色の瞳を自分に向けていた。

「貴様は・・・・・・・・・」

 特徴的な金色の瞳に、黒い外套。鍔の長い帽子を目深に被る、その怪しげな人物はアイティレがソレイユから受け取った手紙に書かれていた、()()()()と符号が一致する。

「・・・・・・・・・・・・お前が『提督』か」

「・・・・・・・・ほう、我が名を知っているか。――そういう貴様はスプリガン・・・・・だな?」

 アイティレが自分の後ろで倒れている少女を庇うように、スプリガンと対峙する。できれば闇奴化していたこの少女をどこか安全な場所に運んでやりたいが、それは無理であった。

 アイティレが闇奴と戦っていたこの場所は、周囲が田園しかない場所だ。アスファルトで舗装された道はスプリガンと自分の立つこの一本道のみ。左右はもう田園だ。ゆえにアイティレに出来るのは、少女の前に立ち塞がることだけだった。

「・・・・・・・・ああ、そうだ」

「・・・・・・・・・・・そうか、では1つ問おう。何の目的があって私の前に現れた?」

 アイティレが警戒するように両の手の拳銃を構える。赤い目を黒衣の怪人に向けながら、提督はスプリガンの言葉を待った。

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