第1378話 ドキドキ!? レイゼロールとのデート(4)
「ふむ・・・・・・」
影人と共にモール内を巡っていたレイゼロールは、何かに気づいたように、チラリとその目を軽く後方に向けた。
「ん? どうかしたのか?」
「別に何でもない。ただ、2人の見知ったネズミがな」
「?」
影人がレイゼロールにそう聞くが、レイゼロールはよく分からない答えを返しただけだった。影人は頭の上に疑問符を浮かべたが、大した事ではないのだろうと、それ以上気にしなかった。
「おっ、雑貨屋か。このままブラついても暇だし、ちょっと見てみるか」
「好きにしろ」
影人は雑貨屋を見つけそう呟く。影人の呟きに、レイゼロールはそう答えを返す。レイゼロールから許可をもらった影人は、「そんじゃあ、まあ」と言ってレイゼロールの手を引き雑貨屋の中に入って行った。
「見て陽華。2人とも雑貨屋に入って行ったわ。これはきっと、2人で愛の巣を飾る何かを見に来たに違いないわ。私には分かるわ」
「い、いくらなんでもそれは飛躍し過ぎだよ。何か気になったからとか、多分そんな理由だと思うよ」
「それは確認してみないと分からないわ。とにかく、私たちも気づかれないように雑貨屋に入るわよ」
その光景を見ていた明夜と陽華はそんな言葉を交わし合うと、少ししてから雑貨屋の中に自分たちも入った。
「あ、いたわ」
影人とレイゼロールに気づかれないように注意しながら店内に入った明夜が、2人の姿を見つけた。明夜は隣にいる陽華に2人のいる場所を指差した。
「あれは・・・・・・髪飾りを見てるのかな?」
「装飾品の場所だから、そうみたいね」
陽華と明夜が物陰に隠れながらそう呟く。2人は眼鏡やサングラス、イヤリングやピン留めなどがあるコーナーの前にいた。
「レイゼロール、お前ちょっと何か着けてみろよ。金がないから買えはしねえけど、付けるだけならタダだし」
「ふん、貧乏人が」
「しゃーねえだろ。学生は基本貧乏なんだよ。ほれ、安っぽいがこのピンクのピン留めなんかどうだ?」
影人が小さなピン留めを取ってレイゼロールに渡す。前髪などを留めるような小さなピン留めだ。
「なぜ我が・・・・・・というか、ピン留めが必要なのはどう見てもお前の方だろう」
影人からピン留めを渡されたレイゼロールは、少し不満そうな顔でそう言った。
「ははっ、まあな。でも、俺はもうこの髪の長さで慣れてるし、ピン留めはいらねえよ。というか、あんまり素顔出したくないんだ。逆に落ち着かないからな」
「スプリガンの時は出ていたのにか?」
「あれは別だ。一種、俺であって俺じゃないからな。それより、ほら着けてみろよ。俺もサングラスつけてやるからさ」
影人はそう言うとサングラスを手に取って、それを前髪の上から装着した。結果、サングラスを掛けたただの前髪が爆誕した。あまりにも無意味である。
「それに何の意味があるのだ・・・・・・はあー、まあいい。仕方がないから着けてやろう」
レイゼロールは至極真っ当なツッコミをすると、ため息を吐きながらピン留めを自分の前髪に装着した。その結果、レイゼロールの無造作な前髪が分かれ、レイゼロールの額が露わになった。
「・・・・・・どうだ?」
「へえ・・・・・・うん。いいと思うぜ。似合ってる」
少し恥ずかしげな目でレイゼロールは影人を見つめた。レイゼロールに感想を求められた影人は、頷き、そう言葉を述べた。
「っ・・・・・・! そ、そうか・・・・ふっ、ふふふ・・・・」
影人の感想を聞いたレイゼロールは、最初こそ澄ました顔だったが、笑みが堪えきれなかったのか、ニヤけた顔を浮かべた。
「ねえ見て陽華! あのレイゼロールがあんな顔してるわよ!? あれは間違いなく恋する乙女の顔よ。私の乙女センサーがビンビンにそう言ってるわ!」
「うっ、た、確かにあのレイゼロールがあんな顔するなんて・・・・・・で、でもやっぱりまだ分からないから!」
その光景を見ていた明夜が女子全開で小さくそう叫ぶ。一方の陽華は、ハラハラとした気持ちと、少し嫌な気持ちを抱きながら、首をブンブンと横に振った。
「すみませーん、お客様後ろ失礼しますね!」
すると、そんなタイミングで雑貨屋の店員が陽華と明夜にそう声を掛けた。店員はすぐに2人の背後を抜けたが、突然の声に驚いた陽華は「わっ!?」と声を漏らし、体勢を崩してしまった。陽華は明夜の肩に右手を置いていたため、必然明夜も陽華に巻き込まれる。「え!?」と声を漏らした明夜は、陽華共々コケてしまった。
その結果、
「ん?」
「・・・・・・」
陽華と明夜は影人とレイゼロールの視界内に、その姿を晒してしまった。サングラスを掛けた前髪と可愛らしいピン留めをしたレイゼロールは、陽華と明夜にその目を向けたのだった。
――次回、「バチバチ!? 恋の三つ巴か四つ巴!? 炸裂! 乙女たちの拳!」お楽しみに!




