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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1374/2051

第1374話 レイゼロールと前髪と(4)

「うし、じゃあ遊びに行くか。て言っても、俺いま金ほとんどねえけど」

「金銭など必要はない」

「そうか? でも、金がいらない場所で遊ぶとなると、けっこう行き先は限られるぜ。お前、行き先はどこにするとか決めてるのか?」

「それは・・・・・・」

 レイゼロールが言葉を詰まらせる。どうやら、どこに行くかは決めていないようだ。

「オーライ。なら、取り敢えずはぶらぶらと歩こうぜ。なーに、散歩も案外楽しいもんだ」

「ふむ・・・・・・まあ、いいだろう」

 影人は軽く笑いながらそう言うと、適当に歩き始めた。レイゼロールは取り敢えず影人のプランに頷くと、影人の隣に並んだ。

 昼下がりの午後。前髪に顔の上半分を支配された、見た目の暗い高校生の男と、氷の女神のように美しい、白髪の喪服姿の女が並んで歩いている光景は、中々に奇妙な組み合わせで、少しだけ人々の目を引いた。だが、当の影人とレイゼロールは全くその視線を気にしていなかった。

「そう言えば、闇人どもは今どうしてるんだ? あいつらも元気でやってるんだろ?」

「それぞれ自由に行動している。フェリートと殺花は我の側にいるが、それ以外はどこにいるか知らん。ああ、キベリアだけはシェルディアと一緒にいるという事は知っているがな。だが、お前もその事は知っているか。なにせ、シェルディアはお前の家の隣に住んでいるようだからな」

「うっ・・・・・・そ、それはだな・・・・・・」

 レイゼロールがジロリとした目を影人に向ける。どうやら昨日の話を覚えているらしい。後、影人が逃げ出した事も。影人は思わず顔を逸らした。

「・・・・・・話すと色々と長いんだよ。でも、お前が知りたいなら話す」

「なら、また後でゆっくりと話してもらおう。ふん、昨日も素直にそう言えば良かったものを。軟弱者のように逃げ出して・・・・・・」

「いや、だってあの時のお前、明らかに面倒くさそうな感じだったし・・・・・・」

「誰が面倒だと?」

「あ、いや・・・・・・なんでもないです」

 その瞳の色と同じように冷たい視線を向けてきたレイゼロール。そんな視線を向けられた影人は、そう言う他なかった。

「ああ、そうだ。これずっと気になってたんだが、お前いつも同じ服着てるよな? 過去の時みたいに。それ以外に服ないのか? だとしたら、その服ちゃんと洗ってるのか?」

「急に失礼極まりない事を聞いてくるな、殺すぞ。お前のそういう所は本当にどうかと思うぞ・・・・」

 新たな影人の質問を受けたレイゼロールは、怒ったような、それでいて引いたような顔を浮かべた。そう言われた影人は、「いや、流石に3回目はまだしばらく死にたくない」と少しズレた言葉を返した。影人の答えを聞いたレイゼロールは、今度は呆れ果てたような顔になった。

「はあー、お前という奴は・・・・・・服は今はこれ1着しか持っていない。だが、不潔というわけではない。力を使って常に清潔な状態に保っているからな。破損しても力を使って修復も出来る。だから、1着で充分なのだ」

「へえ、そういうカラクリか。やっぱ神力ってのは便利だな。でも、そうか。1着だけか。嬢ちゃんも大体いつもあのゴシック服だが、違う衣装も持ってるから、お前もそんな感じだと思ったんだが、そこは違うんだな」

 レイゼロールの答えを聞いた影人はそんな感想を漏らすと、続けてこんな言葉を述べた。

「レイゼロール、お前オシャレとかに興味はないのか?」

「興味ないな。それこそ、シェルディアは案外に好きだろうが」

 なんの感慨もなさそうに、レイゼロールはそう即答した。

「そうか。だが、勿体ないな。お前なんか抜群に素材がいいから、オシャレすればするほど輝くだろうに」

「っ!? な、ななななっ・・・・・・!」

 だが、次の瞬間にはレイゼロールは再び紅潮した。影人のその言葉がきっかけで。レイゼロールは口をパクパクとさせると、軽く俯きながらこう言葉を発した。

「な、ならお前は、我の違う姿が、み、見たいのか・・・・・・?」

 かなり恥ずかしそうな様子で、レイゼロールは影人をチラリと見つめた。レイゼロールにそう聞かれた影人は、「うん? まあな」と答えた。

「そ、そうか・・・・・・な、ならばいつか見せてやる事もやぶさかでは・・・・・・」

 ゴニョゴニョと嬉し恥ずかしそうな表情で口籠るレイゼロール。だが、

「ああ、後レゼルニウスの奴も絶対喜ぶぜ。うん、これは間違いねえな」

 そんなレイゼロールの様子など全く気にせずに、影人はそう呟いた。

「なっ・・・・・・」

 その言葉に、レイゼロールはショックを受けたような顔になる。そして一転、不機嫌な顔を浮かべる。

「なぜそこで兄さんが出てくる・・・・・・ふん。アホめ。この大アホめ」

「何で急にアホ呼ばわりされてんだよ俺・・・・・・? なあ、何でいきなり不機嫌になってんだよ。昔からお前のそういうところ、本当に分かんねえぜ」

「そういうところも含めて、大アホだと言っている。はあ、お前は本当に・・・・・・」

「いや、だからどういうところだよ・・・・・・」

 レイゼロールと影人が互いにそんな言葉を交わし合う。互いに少し呆れているような状況だが、不思議とそこに重たい空気はない。むしろ、互いの素を曝け出しあえる自然な関係が、そこにはあった。

 ――影人とレイゼロールの遊びという名のデートは、まだ始まったばかりだ。

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