第1373話 レイゼロールと前髪と(3)
「ええ・・・・・・なあ、レイゼロールよ。お前俺の話聞いてたか? だから、せめて1回家に帰らせて――」
「ダメなものはダメだ。別に言わなければ死ぬという事でもあるまい。ならば、我と共に行動する事を1番の優先事項にしろ。ずっとお前を待っていたのだ。これ以上我を待たせるな」
レイゼロールは影人の言葉を遮り首を横に振った。そして、どこかジトっとした目を影人に向ける。レイゼロールにそう言われた影人は「うっ・・・・・・」と気まずそうな顔になる。そう言われてしまったら、影人は何も言う事が出来ない。
「・・・・・・はあー、分かったよ。お前に付き合ってやる。でも、ちょっと待て。連絡だけ入れるから」
「ふん。最初からそう言えばいいものを」
最終的に折れた影人はため息を吐きそう言うと、ブレザー右ポケットからスマホを取り出し日奈美に、「友達と会ったからそのまま遊ぶ」とメッセージを送る。影人の言葉を聞いたレイゼロールは、当然だとばかりにそう呟く。
「『あんたに友達いたんだ。まあ、分かったわ』だと・・・・・・? 母さんめ、それが息子に言うセリフかよ・・・・・・」
日奈美から返ってきたメッセージを見た影人は、軽く自分の母親に怒りを覚えた。だがまあ、了承は取れたので良しとしよう。スマホをブレザーのポケットに仕舞った影人は、レイゼロールの方を見た。
「よし、いいぜ。で、俺はお前の何に付き合えばいいんだ?」
「別に何にという事は・・・・・・全く、お前は気が利かん奴だな」
「? どういう意味だよ?」
少しムスッとしたような、不機嫌そうな顔を浮かべるレイゼロールに影人は首を傾げた。本当に、影人にはレイゼロールの言葉の意味が分からなかった。
「だから・・・・・・特に用という用はないのだ。人間風に言えば、その・・・・・・一緒に遊ぶぞ、という事だ。わ、わざわざ言わせるな・・・・・・!」
カァと恥ずかしそうに少し頬を赤らめながら、レイゼロールは顔を背けそう述べる。レイゼロールにそう言われた影人は、思わずポカンとした顔になった。
「・・・・・・くっ、ははははははっ! お前が俺と遊びたいか! そうか、そうか! いや、悪い。お前が素直にそう言ったのが、あまりに意外だったからさ。しかし、そうか・・・・・・くくくくっ、お前が俺とね・・・・」
「な、何を笑っている! ええい、笑うな! 我とて恥ずかしいのだ!」
急に笑い始めた影人に、レイゼロールは顔を真っ赤にさせそう叫んだ。現れた時の無表情はどこへやら。だが、レイゼロールがここまで表情を崩すのは、きっと影人の前だけだろう。
「あー、笑った笑った。しばらく笑えない気分だったんだがな。ありがとよレイゼロール」
「ふ、ふん・・・・・・! よく分からんが、一応感謝の言葉は受け取っておいてやる・・・・・・」
一頻り笑った影人はレイゼロールにそう言った。その言葉を聞いたレイゼロールは、再び顔を背けそう言葉を述べた。




