第1371話 レイゼロールと前髪と(1)
多分きっと、まあラブコメ回である。
「じゃあな、朝宮、月下。俺こっちだから」
ファミレスを出た影人が陽華と明夜にそう告げる。影人の言葉を聞いた陽華と明夜は、明るい顔で頷いた。
「うん! またね帰城くん!」
「バイバイ。また学校で会いましょ」
「あー・・・・・・そうだな。また、学校でだな・・・・」
陽華と明夜に元気に手を振られた影人は、明夜の学校という言葉で留年の事を思い出した。そのため、気まずそうな顔でそう言うと、2人に背を向けてトボトボと歩き始めた。
ちなみに、当たり前ではあるが影人は留年の事を2人に告げていなかった。いずれバレるのは分かっているが、とても留年と知らされた今日に、自分からはそんな事を同級生(いや元か)に言えなかったのである。なけなしの意地のようなものだ。
「? 帰城くんどうしたんだろ。何か最後元気なかったよね?」
「さあ? 気のせいじゃない?」
陽華が不思議そうな顔で明夜にそう言うが、明夜はあまり気にしていない様子だった。
「それより、この後どうする陽華? まだお昼だし時間あるけど・・・・・・休みだから、どっか遊びに行っちゃう?」
「そうだね。帰城くんと話せて色々スッキリしたし・・・・・・遊びに行っちゃおっか!」
「オーケー。それでこそ遊びたい盛りの10代よ。よし、ならまずは駅前のショッピングモールにでも行きましょうか」
「うん! 分かった!」
明夜と陽華は互いに頷き合うと、最寄りの駅の方に向かって歩き始めた。
「そう言えば、陽華ご飯食べてる時チラチラ帰城くんの方見てたわよね? 陽華いっつもご飯食べる時は、夢中でご飯以外見ないのに、今日は帰城くんの事気にしてる感じだったし・・・・あれ何だったの?」
先ほどの影人との昼食の事を思い出しながら、明夜は陽華にそう聞いた。明夜にそう聞かれた陽華は「え!?」と声を漏らす。
「わ、私そんなに帰城くんの事見てた・・・・・・?」
「ええ。帰城くんはあんまり気づいてなかったみたいだけど。けっこう見てたわよ」
「わ、わっ・・・・・・嘘・・・・・・!」
明夜の頷きを見た陽華はカァと恥ずかしそうに顔を赤らめた。そして、パタパタと両手で手を振り明夜にこう言葉を返す。
「い、いや深い意味はないよ多分! ほ、ほら帰城くんというかスプリガンには色々思い入れがあるから! と、とにかく深い意味はないから!」
「なーんか怪しいわね。幼馴染であり名探偵である私、月下明夜の勘が怪しいと告げてるわ。陽華、嘘ついてるでしょ」
顔を赤らめ否定する幼馴染に明夜はジーっとした視線を向けた。
「ち、ち違うし! ていうかアホの明夜が名探偵なわけないでしょ!? バーカバーカ!」
陽華は明夜の言葉を慌てて否定すると、どこか逆ギレ気味にそう言った。陽華にアホやバカと言われた明夜は軽くブチギレた。
「はあー!? バカって言う方がバカなんですー! この食いしん坊陽華! やっぱり何か嘘ついてるわね! 素直に吐きなさい!」
「絶対嫌! べーだ!」
「この! よーし、なら駅前まで競争よ! 私が先に着いたら教えてもらうから! 教えなかったらクレープ奢りね! はいスタート!」
下を突き出して来た陽華に更に怒った明夜は、突然そう言うと、凄まじい速度で駆け始めた。ダッシュし始めた明夜を見た陽華は、「何それ!?」と驚きつつも、自身も明夜を追い始めた。
「ふん! なら明夜が負けたらクレープ10個だから! 絶対奢ってもらうから!」
「何で10個もなのよ!? これだから食いしん坊は! ええい、いいわ! 勝つのは私よ!」
「いいや、私だね!」
明夜がスピードを上げる。陽華も明夜に負けじとスピードを上げ、2人は駅までのレースを開始した。
土曜の昼過ぎ、急に始まった女子高生たちのレース。陽華と明夜は全力で駅に向かって駆けた。それは、若さや青春を感じさせる、何とも微笑ましい光景だった。
――だが、昼ご飯を食べた直後に全力疾走したので、陽華と明夜は横腹が痛くなり、後半は2人ともかなり失速した。
それもまあ――ある意味、微笑ましい光景だった。




