第1370話 再会する光と影(5)
「だが、変に馴れ合う気はないからな。俺は孤独を愛するロンリーウルフ、一匹狼だ。だから、基本は塩対応でいく」
「え、何で!? ちょ、ちょっとそれはおかしくない!?」
「凄いわね、よくもまああんな言葉のすぐ後にそう言えるもんだわ・・・・・・情緒が仕事してない」
影人の格好をつけた(本人は本気だが)言葉を聞いた陽華は本気で戸惑い、明夜は静かに引いていた。前髪クオリティ全開の言葉を今までほとんど聞いてこなかった2人の反応は、逆に新鮮なものだった。
「おかしくはない。確かに、今まではスプリガンだってバレないように、お前らには必要以上に冷たく当たってきたが、元々俺は人とあんまり関わり合いたくないんだよ。それが俺の性分だからな」
ニヤリと前髪特有の気色の悪い笑みを浮かべながら、影人はそう言葉を放つ。そう。例えこいつに悲しい過去があろうとも、こいつは化け物なのである。人間として、色々欠けている。やっぱり、死んでいた方がよかったのではないだろうか。
「む、むぅ・・・・・・!」
「これはかなり手強そうね・・・・・・」
陽華は軽く膨れ、明夜は難しげな顔になる。この気難しい前髪とどう友達になるか。2人がそんな事を考えていると、ぐぅ〜と影人の腹が鳴った。
「ああ、そういや昼飯まだだったな。悪い、何か飯注文させてもらうぜ。何にするかな」
影人は自分の腹を軽くさすると、メニュー表を手に取った。そして、昼食を何にするか考え始める。
「あ、そう言えば私たちもお昼ご飯まだだったね。明夜、メニュー取ってくれる? 一緒に見よ」
「そうね。腹が減っては何とやらと言うし。あ、陽華。ご飯ついでに帰城くんと話して仲良くなりましょ」
「あ、それいいね! ご飯の時は仲良くなる絶好のチャンスだし! うん、そうしよう!」
「聞こえてるぞ。ったく、何で香乃宮といい、お前たちといい、俺に関わり続けようとすんのかね・・・・・・」
人生の不思議の1つだ。影人はそう思い、軽く息を吐くと再びメニュー表に目を通した。陽華と明夜も、もう1つのメニュー表を2人で見始める。
「決まったか?」
「うん!」
「私も」
「よし、ならベル鳴らすぜ」
陽華と明夜に確認を取った影人がベルのボタンを押す。すると、少ししてウエイターが現れた。
「お待たせしました。お伺いします」
「ハンバーグとエビフライのライスセットをお願いします」
「私はカルボナーラで」
「私はハンバーガーとトマトスパゲッティとミックスフライ定食のご飯大盛りと、あとポテトの大盛りでお願いします!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
3人の注文を受けたウエイターはそう言うと席から離れて行った。
「しっかし・・・・・・朝宮、お前相変わらずよく食うな。俺だったらあんな注文出来ないぜ。その細い体の中によく入るな・・・・・・」
影人が呆れたような、感心したような顔でそう呟いた。陽華の大食いは有名だが、やはり何度見ても陽華が大食いだとは中々信じられない。
「えへへ、そ、そうかな?」
「何で嬉しそうなのよ・・・・・・帰城くん、陽華はただの大食いじゃないわ。それはそれはバカみたいに食べるのよ。そのくせ、全く太らないし。この前女子数人で陽華のお腹を直接触ってみたら――」
「わ、わあ! 明夜、その話はなし! なしだから!」
陽華が慌てて明夜の口を塞ぐ。明夜は「モゴモゴ!」と何か抗議していたが、陽華はしばらく明夜の口から手を離さなかった。
「はっ、何やってんだよ」
その様子を見た影人が思わず小さく笑う。この2人のやり取りを見ていると、どこかバカバカしくて笑ってしまうのだ。
その後、注文したメニューが来たので、3人は昼食を取った。陽華と明夜は何かと影人に話しかけて来たが、影人は必要最低限の言葉しか返さなかった。無駄に有言実行する男である。だが、昼食は穏やかに進んだ。
――かつて光であった少女たちと、影であった少年の再会はこうして果たされた。以前は交わらなかった光と影は、少しずつではあるが、確かに交わり始めた。




